都市に潜むニシキヘビ、巨大トカゲ、ワニ……ガサ入れで押収された「危険なペット」たち

 今年の9月初め、富山県の高校の敷地内で体長約80センチの巨大トカゲが捕獲されて騒ぎになった。このトカゲはミズオオトカゲという種で、巨大ではあるが、ペットとしての飼育が認められている。警察には遺失物届が出ていて、飼い主に引き取られた。


 しかし、世の中には、“飼うことが法で禁止されている危険な爬虫類”をペットとして飼う人々がいる。
爬虫類の規制は厳しくなっている
 昨今は爬虫類をペットとして飼うのがちょっとしたブームだが、一方で、自然環境保護の意識の高まりとともに、爬虫類の飼育を規制する法律は段階的に厳しくなっている。たとえば、カミツキガメは2006年に施行された「外来生物法」で個人がペットとして飼うのは禁止され、ワニガメは「動物愛護管理法」の改正で、今年6月1日からペット飼育は禁じられた。
 他にも動物に関わる法律には、絶滅の恐れのある野生動物を保護する「種の保存法」や、天然記念物の保護を規定した「文化財保護法」などがあり、これらの法に従わずに動物を飼育すれば処罰の対象になる。
 警察は、違法な飼育に関する情報をつかむと、ウラを取ったうえで飼育者に家宅捜索(通称“ガサ入れ”)をかけ、証拠となる動物を押さえるが、その際、哺乳類や鳥類、爬虫類などの専門家を帯同することがある。
 全国の都道府県警から“爬虫類ガサ入れ”への同行を依頼されているのが、静岡県にある爬虫類・両生類専門の「体感型動物園iZoo(イズー)」で園長を務める白輪剛史氏だ。
爬虫類の“ガサ入れ”に同行する専門家
「ガサ入れに同行するのは1〜2カ月に1回程度で、依頼されれば全国どこへでも行きます。警察が我々のような専門家をガサ入れに連れて行くのは、規制対象の動物かどうか判別が難しいケースや、ターゲットの動物以外にもいろいろ飼っていて、他にも違法性のある動物がいるかもしれないというケース。危険な動物を押収することもあるので、扱い方を知っている人間としても重宝されます」
 ガサ入れに呼ばれる頻度は昔より増えているという。爬虫類がブームになる一方で、取り締まる法律が厳しくなれば、それも当然である。爬虫類を飼っている人からすれば、嫌な世の中になりつつあるかもしれないが、一般人からすれば、もしマンションの隣室の住人が大蛇を飼っていたら、平静ではいられないだろう。
1Kのアパートで4メートルのヘビを放し飼い
 過去にはこんな事件があった。
「数年前に都内のアパートにガサ入れに入ったらヘビを5頭以上飼っていて、その内の1頭が全長4メートルのビルマニシキヘビでした。飼育者は20代の男性。飼育ケースにフタをしていなくて、1Kのアパートで放し飼いに近い状態でした。
 当時はまだ飼育環境を整えて登録すれば飼育OKでしたが、この男性は登録していなかった。賃貸住宅の場合、登録には大家さんの同意が必要で、4メートルの大蛇を部屋で飼ってもいいという大家さんはほとんどいませんから、登録したくてもできなかったのでしょう。
 ヘビ好きなのはよくわかりますが、寝ている間にヘビが飼育ケースから出てきて首の上にのったり、巻き付いたりしたら、柔道の絞め技のように“落ちる”状態になって死ぬこともある。命拾いして良かったね、というのが正直なところです」
「大人しくて咬まない」は思い込み
 爬虫類の専門家が大蛇を扱うときは、必ず2人で対峙するという。いくら大人しいヘビでも何かの拍子で噛むことはあり、噛んで巻かれて締められると1人では解けず、命を落とす危険があるからだ。
「男性は『大人しくて、絶対に咬まない』と言っていましたが、確かに野生のヘビと違って、飼育されているニシキヘビは攻撃的でなくなり、慣れたように見える個体もいます。一方、人間も次第にヘビに慣れて、危険に対する感覚が麻痺する。この慣れと慣れがあわさって、爬虫類との距離感を失ったときに事故が起きる。警察のガサ入れに協力しているのは、こうした事故を防ぎたいという思いが強いですね」
「大人しくて咬まない」というのは人間側の勝手な思い込みで、そう信じてしまう人ほど事故に遭う危険性が高いという。
 日本で飼育が許可されているヘビ、トカゲの中に日常的に人間を襲う種類はいないが、違法な動物となれば極めて危険な種類も含まれてしまう。
 危険な動物ではなくても、絶滅危惧種や天然記念物の動物をペットして飼うのも認められていない。
通報のきっかけはツイッター
 ある年、関東近郊に住む20代男性が、沖縄に生息する天然記念物のキシノウエトカゲを飼っているという情報を警視庁がつかんだ。
「なぜ違法飼育がバレたのかというと、本人がツイッターにキシノウエトカゲを飼っている様子の写真をアップしていたから(笑)。見せびらかしたかったんでしょうが、それを見た人たちが警察に通報したのです」
 ツイッターでの“通報しました”の案件が、ガサ入れにつながったのだ。現場に踏み込むと、飼育者は実家で親と住み、多くの爬虫類を飼っていた。
「ガサ入れではキシノウエトカゲは見つからず、本人の言い分では、ツイッターで炎上していたたまれなくなったので、沖縄の捕獲した場所に放してきたということでした。証拠として沖縄行きの航空券も出してきました。他にもいろいろ飼っていてネットで売買しているようでしたが、違法性のない動物ばかりでした。
 なので、帰ろうと警察車両に乗り込んだら、1人の警察官が追いついてきて、庭にカメがいる囲いを見つけたので『ついでなので見てもらえませんか』と。それでクルマから降りて見に行ったんです」
 囲いのなかではヤエヤマイシガメが飼われていた。これも沖縄産だが、ペットとしての飼育が認められているカメである。
国指定の天然記念物に「中国産です」
「そのときに囲いの隅に木箱を見つけたんですね。開けたら、セマルハコガメが4頭出てきた。これは沖縄に生息している国指定の天然記念物で、ペットとしては飼えません。
 ただ、セマルハコガメは台湾や中国でも生息していて、それを輸入して飼育するのはOKなんです。本人に聞いたら、案の定『中国産です』とマニュアル通りの供述をした。しかし、沖縄の八重山でキシノウエトカゲを密猟し、ヤエヤマイシガメも捕獲しているわけで、状況から考えて中国産とは思えない。『どう見ても沖縄産だと思います』と警察官に進言して確認してもらったところ、『はい、沖縄で捕まえました』とその場で自供した」
 ガサ入れに入ったのが警察官だけだったら「中国産」で押し切られたかもしれない。
「警察官が相手だと、飼育者の中には素人だと思って舐めてかかり、『これは飼ってもいい別の種だ』などと言い逃れようとする人がいる。だけど、爬虫類業界は狭く、私の顔と名前は知られているので、私がいると嘘が通用しないと思い、言い逃れをあきらめる」
 白輪氏がガサ入れに同行するようになって否認案件が減った、という警察官もいるそうだ。
「たかがカメで」
 現在はペット飼育禁止になった動物でも、規制前から許可を取って飼っていた場合は、その個体については一世代限り飼育を認められる(繁殖は不可)。しかし、許可を取らずに飼っていた人の場合、そのまま隠れて飼い続けるケースがあり、近年はこうした事例の摘発が増えている。
 白輪氏は数年前、西日本へカミツキガメの飼育者のガサ入れに同行した。前述した通り、カミツキガメは14年前からペット飼育は禁止である。
「このときの飼育者は30代男性で、親と小学生の子供と3世代で同居していました。そのときは外でガヤガヤやっていたので、飼育者の父親が何事かと外へ出てきた。『警察の者ですが、実は息子さんが〜』と告げると、雰囲気がガラッと変わりましたね。息子を守らなきゃと思うんでしょう。『カメを飼うのがそんなに悪いことなのか』とけっこう揉めました。過去には『たかがカメで』と言った方もいました。
 当の飼育者は、まったく悪気がなく、なんでもないことのようにカミツキガメを飼っていました。禁止であることは知りながらも、ズルズル飼い続けてきたんです。本人は言い逃れもせず、あっさり認めましたけどね」
 違法飼育者の中には、飼っている時点では罪の意識を感じていないケースも多い。動物が逃げ出して大騒ぎになったり、他人に危害を与えたりして初めて後悔する。そこが違法飼育のやっかいなところである。
「爬虫類のイメージをクリーンにしたい」
 ところで、警察がガサ入れで押収した動物は最終的にどうなるのか。
「密輸動物の場合は、経済産業省の管轄になり、しかるべき動物園に振り分けられます。それ以外の国内法の事案では、警察がウチや他の動物園などに委託保管という形で預け、裁判が終わると検察庁から継続飼育を依頼され、払い下げられることが多い」
 写真のセマルハコガメは、前述したガサ入れで押収されたもの。メガネカイマンは、ガサ入れには同行していないが、関西で押収されたものを委託保管で預かっている。
 違法飼育されていた動物のなかには、正規ルートでは絶対に入手できない希少な動物もいる。そのため、白輪氏は業界内で「希少動物を手に入れるためガサ入れに協力している」と陰口を叩かれることもあるという。
「個人の愛玩飼育はダメでも動物園では飼えるという動物は多いので、押収されてくる爬虫類のほとんどはすでにここの園にいます。だから、本当に珍しいと思うような動物が来ることは極めて希です。むしろ飼育にはお金と手間がかかるので、これ以上持ってこられても困るという動物ばかりです。それでも捜査に協力しているのは、爬虫類業界をクリーンにするため。違法な希少動物を飼いさえしなければ、捜査も受けないわけですからね」
 今、違法飼育の摘発でもっとも多いのが、やはり爬虫類だという。爬虫類飼育による事故を減らすだけでなく、「業界を健全化して、爬虫類のイメージをクリーンにしたい」というのが白輪氏の願いだ。
清水 典之/Webオリジナル(特集班)
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