樹液にさわると危険な外来植物が、北海道に生えている――?そんな情報がSNSで話題になり、取材を始めた記者。知らぬ間に足元に根を張る「外来種」は、人が持ち込み、見過ごし、置き去りにした痕跡でもあります。その足跡をたどりました。(朝日新聞記者・太田悠斗)
「外来種」の植物、SNSで話題に
猛毒の植物…ですか?
デスクからの電話でその存在を知ったのは、6月の下旬でした。 人の背丈を超える白い花。西アジア原産で、樹液に触れるとひどい炎症を引き起こす危険植物「バイカルハナウド」が、北海道に生えているという情報があるとのことでした。 SNSで検索すると、札幌中心部にある北海道大学に、似た花が生えているとの投稿が拡散されていました。 現場に向かいましたが、学生たちの人だかりの中で、その植物はすでに刈り倒されていました。 大学が調査したものの、正体は分かりませんでした。元々は国内にいない「外来種」であることは確かだといいます。
「悪者」だと思い込んでいたけれど
この花をきっかけに、アライグマやオオハンゴンソウ、道内の外来種による被害を連想しました。 なにか書けないだろうか、と考えていたとき、先輩記者から問いかけられました。「そもそも外来種って悪いもの?」 取材先の研究者からは、国内の外来種がまとまった図鑑を紹介されました。
10センチほどの厚さで、両手に持つと重たい――。ぱらぱらとめくると、見覚えのある草花が並んでいます。 それぞれの学名の横には、原産地が書いてありました。 アサ=中央アジア原産、ハルジオン=北アメリカ原産――。
外来種とは、本来の生息地とは違う場所に「人によって」持ち込まれた動植物のこと。初めは誰かが運んできたのです。 誰がどんな理由で持ち込み、なぜ広まることになったのか……。そう考え、その歩みをたどる連載記事の取材を始めました。
取材では「悪者」だと思い込んでいた存在の、別の顔が見えました。 在来のハチを駆逐してしまう外来バチは、トマトやメロンのハウス栽培で受粉を助けるために輸入されたものでした。 各地で畑を荒らすアライグマは、ペットとして持ち込まれました。
ある研究者はこう言いました。
「私たちの生活は外来種なしでは成り立たちません」
スーパーに並ぶ野菜や、家で待つペット、そのふるさとからの足跡を、想像することから始めたいと思います。
