奄美大島で島内全域に拡大しているソテツシロカイガラムシ(外来種で学名アウラカスピス・ヤスマツイ=英語表記の通称はCAS〈キャス〉)による被害は、加計呂麻島、喜界島にも広がっている。防除では被害葉の切除や繰り返しての薬剤散布などが進められているが、県と薬剤メーカーの実証試験により水稲で使用されている薬剤がソテツにも効果があることが分かり、4月中旬、メーカーによる国への登録申請が行われた。
県森づくり推進課によると、実証試験は県の機関である森林技術総合センターとメーカー1社によって2024年度から行われている。その結果、稲作用に使っている薬剤をソテツにも使用したところ、「ある程度一定期間なら虫が付着しない」ことが判明した。
薬剤の使用方法は葉や幹に散布するのではなく、薄めたものを幹の根元部分にまく方法。まいた水を吸うように薬剤をソテツ内部に吸収させることで、飛来したカイガラムシが葉の根部分に付着した際、そこで薬剤を含む汁を吸うことでカイガラムシを死滅させる。登録薬剤の中で使用を呼び掛けているマツグリーン液剤などはソテツの害虫専用ではなく、年に6回など繰り返し散布が必要だが、登録申請中の薬剤は半年ぐらいなど一定期間効果が確認されているという。
薬剤の使用は課題もある。ソテツの実(ナリ)を食用とする場合。「ナリガイ(でんぷん粥(かゆ)」「ナリみそ」は奄美の食文化だが、県は現在のマツグリーン液剤を用いた防除スケジュールでも「実などを食用する場合には、薬剤の散布はできない」を示しており、申請中の薬剤も同様の判断となる可能性がある。また、山地や傾斜地にあるソテツについては防除効果の検証は行われていない。
県は登録が認可されたら、この薬剤を用いた防除スケジュールを作成し示す方針。メーカーによる登録申請は農林水産省に行われているが、認可時期についてはまだ見通せないという。現在、島内のソテツは新芽が出て青々とした葉への成長が見られる一方、新芽が出ず黄白色に枯れた葉のまま、幹だけの状態、幹も倒れ枯死したものもある。再生した貴重な葉を守るためにも申請薬剤の早期認可が待たれそう。
CAS防除に向けた薬剤登録の動きについて一般社団法人日本ソテツ研究会の髙梨裕行会長は「重要な進展ではあるものの、環境への影響や薬効の検証試験を踏まえた上で、着実な展開を期待している。CASによる被害が深刻な状況から早期認可を地元自治体は国に働き掛けていただきたい。ソテツは生命力が強い。効果がある薬剤を活用し子株など残せるものは残して、奄美の貴重なソテツが未来に残ることを願う」と語った。