築年数を問わず、住宅の大敵となるシロアリ。気づかないうちに床や柱を食い進み、深刻な被害をもたらすこともある。近年は外来種の流入や猛暑の影響などもあり、被害の様相が変わりつつあるという。老舗のシロアリ駆除業者に現状などを聞いた。
◆外来種が“カバン”に乗ってくる時代
近年、日本全国にいるヤマトシロアリ、関西あたりによくいるというイエシロアリだけでなく、アメリカカンザイシロアリと呼ばれる外来種の被害が目立つようになったというのは、大正2年創業の神戸の老舗シロアリ駆除業者「今村化学工業白蟻研究所」の今村誠治さん。
アメリカカンザイシロアリは今村さんいわく、「水をそんなに必要にしない」そうで、輸入された材木や家具、旅行者の荷物に紛れて持ち込まれるケースも。さらに最近では、オーストラリアからの輸入材に紛れて港で発見された例もあり、外来種の特性によっては、駆除薬剤や施工方法も一から見直す必要が出てくるという。
ちなみに、世界中には1900~2000種類くらいシロアリがいるそうで、「アフリカのシロアリの女王アリは親指より大きいものもある。日本のイエシロアリの女王も大きければ小指くらいはある」(今村さん)。
◆畳が危ない? マンションでも被害が
「畳のあるマンションの上階でシロアリ被害が出ることもあります。条件がそろえば4〜5階でも生息します」。窓枠のアルミサッシなどから水気を得て、生活環境が整えば高層階にも進出するそう。発見時は水気を断ち、風通しを良くするだけでも一時的な対処になるとのこと。
また、酷暑が続く年には、シロアリの羽アリが例年より早く出現したり、活動が長引いたりする傾向も見られるという。気温の上昇はシロアリの生態にも影響を与え始めている。
「生活しやすい温度が、イエシロアリだと30℃前後。ヤマトシロアリは28℃くらい。35~36℃くらいになると暑すぎて動かない。暑くなると、死ぬというより、ある程度の温度になるまで動かない」(今村さん)。湿気の多い風呂のまわりは年中あたたかく、シロアリが動ける要素が揃っているため、格好の棲家になりやすいそう。
◆新築住宅も「発泡スチロール」が落とし穴に
新築の家は、薬剤処理された建材を使うなど、シロアリ対策が進んでいるとされる。しかし、今村さんは「意外な盲点もある」と指摘する。
「最近の家は床下の断熱材に発泡スチロールが使われていることが多い。シロアリはこれを好んでかじり、道をつくってしまうんです」。発泡スチロールそのものは食べられないが、巣に通じる“トンネル”を掘るには最適な素材。そこから上階にまで侵入されるケースも少なくないという。
◆「DIYリノベ」は要注意
古民家再生などのDIYブームも、シロアリ被害と無縁ではいられない。「古い家は昔からシロアリにとって居心地がいい場所。土台だけ新しくしても、そこが新たな“食べ物”になります」。化学薬品を使うか自然素材を選ぶか、目的に応じた使い分けが重要だと、老舗業者ならではのこだわりも明かす。
◆「家に近づけない」方法も
「人間の家に住んだばかりに悪者扱いされていますが、本来、倒木をかじって土に戻す“自然の掃除屋”なんです」と今村さん。長年見続けていることで、シロアリへの愛着もわくそうで、「我々はシロアリがワーッと出てきてもむやみに殺そうという気はあまりおきない」と本音も。
可能な限り殺さず、自然素材の薬剤を使って「家に近づけない」方法もあるという。例えばヒバ油由来の薬剤を用いることで、化学物質を使わずにシロアリを遠ざける手法も開発されている。ただし、「予防でも5~6年たつと、どうしてもやってくる。一生持つわけではないので」。シロアリ対策は一時的ではなく、恒久的に必要だと、今村さんは呼びかける。
◆「シロアリはどこにでもいる」と思うことが第一歩
「地面に木材があれば、どこにでもシロアリはいます」と今村さん。被害を“ゼロ”にすることは難しいが、構造や湿気、外来種への注意など、少しの知識でリスクを大きく減らすことはできる。住宅の寿命や安心を守るには、“見えない敵”を正しく知ることが、何よりの備えになるだろう。