55種を超す鳥類がすでに絶滅、「救う価値があるものをどう決めるか」が今問われている
ニュージーランドでは8000万年もの間、数種のコウモリを除いて、陸生哺乳類がまったくいなかった。しかし750年ほど前から人間が上陸し始め、未知の脅威を次々ともたらした。持ち込まれたのは、ごくありふれた捕食動物たちだが、これまでに55種を超す鳥類が絶滅した。
生態系の破壊を止めるため、ニュージーランド当局は人間の手で捕食動物を一掃する計画を立案した。2016年、当時のジョン・キー首相は、50年までに主要な捕食動物を完全駆除するという無謀とも思える計画、「プレデター・フリー2050」を掲げた。対象は3種のネズミ、オコジョ、フェレット、イタチ、そしてフクロギツネだ。
外界から隔絶されながら進化してきたニュージーランドの在来種の苦境を最も体現している鳥、それはキーウィだ。野生のキーウィに出くわすと、地上をうろつく捕食動物から鳥たちが逃げる必要などなかった平和な時代に、タイムスリップしたような気分になる。
だが、東ポリネシアから人間がネズミを連れて渡ってくると、鳥たちは何の前触れもなしに、安全なすみかを奪われることになった。
意図的に導入された外来種も頭痛の種となった。ヨーロッパ人は、食肉用とスポーツ狩猟用に持ち込んだウサギの大繁殖に手を焼き、その対策として、フェレット、イタチ、そしてオコジョを移入した。
しかし、ウサギはほとんど減らなかった。この3種は、ウサギより捕まえやすい獲物に目をつけたのだ。外来の天敵から身を守るすべを知らない鳥や動物たちは、格好の餌食となった。
「どちらを選んでも、動物に死を宣告することになります」
オコジョはわなや毒を警戒するため、駆除は難しい。そこで、まずはネズミをおびき寄せるペレット状の毒餌を入れたプラスチック製の箱を数十個、木の根元にねじで留めて設置する。ネズミにたっぷり毒を盛れば、それを食べたオコジョもおそらく死ぬだろう。まさに一石二鳥の方法なのだ。
「プレデター・フリー2050の理念には反対していません」と話すのは、ニュージーランドのマッセー大学動物福祉科学・生命倫理研究所で共同所長を務めるンガイオ・ボーソレイユだ。「けれども、何百万匹もの痛みがわかる動物たちに衝撃を与えるような試みをしようとするのなら、倫理的な責務が生じます」
少なくともこれまでに実施されてきた駆除は、動物福祉の基準を確実にクリアしているとは言えない、との批判も聞かれる。外来種を一掃するこの国の取り組みは、「強烈な苦痛を与え、動物が苦しみながら死ぬことがわかっている毒物の使用に依存しています」。著名な動物行動学者のジェーン・グドールは、駆除計画を倫理的に検証した報告書でそう述べている。
何もしないことも倫理的には問題だ。「捕食動物を放っておくのは、“殺しのライセンス”を与えるようなもの」と言うのは、ニュージーランド自然保護局の職員でプレデター・フリー2050の運営管理を担当しているブレント・ビーベンだ。
「私たちは二者択一を迫られているんです。在来種か、ここに属していない動物か。存続すべきはどちらなのか。ただ、どちらを選んでも、動物に死を宣告することになります」
文=ケネディ・ウォーン