静岡県内で「トンボの楽園」と呼ばれる場所が外来生物に脅かされています。環境を破壊するのは水辺の“厄介者”。その生物を農作物を育てる「たい肥」に変身させようと農業高校の生徒が立ち上がりました。
静岡県磐田市の桶ケ谷沼で外来生物の捕獲作業に当たっていたのは、静岡県立磐田農業高校の生徒たちです。
<磐田農業高校3年生産流通科 竹田菜南さん>
「野菜を育てるときに使う丸い支柱を使って、緑色のネットを周りに巻いて補強して作りました」
桶ケ谷沼はトンボの幼虫=ヤゴにとって外敵から身を隠す最適なすみかで、かつては70種類が生息した「トンボの楽園」でした。
<磐田農業高校3年生産流通科 小林勇斗さん>
「桶ケ谷沼は(磐田市の)誇れるもののひとつです。在来種より外来種のほうが捕食する力が強いので、在来種が減らないようにしないといけないなと」
高校生たちが自作の罠で狙う“厄介者”はー。
<桶ケ谷沼を考える会 西尾公兵さん>
「こちらがミシシッピアカミミガメです。水草やトンボの幼虫のヤゴや在来の生き物を捕食してしまうので捕獲しています」
特定外来生物のミシシッピアカミミガメです。平均寿命は30年と長く、飼育をあきらめ川や沼に放されたことで、自然界で増加。全国におよそ800万匹いるとされ、2023年6月から条件付特定外来生物に指定されて販売や購入、放出が原則禁止されています。
<桶ケ谷沼を考える会 西尾公兵さん>
「厄介な天敵と言いますか、トンボにとって住みやすい環境を壊してしまう生物」
桶ケ谷沼でもアカミミガメによってヤゴが食べられるなどして、生息するトンボは約2割減りました。
<磐田農業高校生産流通科 山本智久教諭>
「きょうはいよいよカメたい肥のサンプルをつくっていきます。先週の金曜日にカメが届きました。桶ケ谷沼で獲れた正真正銘のカメです」
この問題に対処するための秘策が捕獲したアカミミガメを農業用の肥料に変えて作物を育てる、いわば「カメたい肥」の活用です。
捕獲されたアカミミガメは、国が定めるガイドラインにのっとり、磐田市の冷凍庫で凍らせて殺処分されます。肥料にするためにはその後、野菜の茎や葉といった農業残渣のほか腐葉土などと混ぜ合わせ2か月ほど発酵させます。甲羅などは一般的な肥料の主な成分となるリンやカルシウムが多く含まれているとされています。
<磐田農業高校生産流通科 山本智久教諭>
「農産物の茎や葉を強くさせて、病害虫に汚染されにくくしたり、成長を促したりする効果はあるかなと」
磐田農業高校では実際に2023年「カメたい肥」を使いニンニクを栽培。生育や味に問題はなかったと言います。
<磐田農業高校3年生産流通科 竹田菜南さん>
「アカミミガメも生き物で命があるので、作物をつくる循環をつくることで、アカミミガメも悪影響を及ぼすだけでなく役立てることができる」
<磐田農業高校生産流通科 小林勇斗さん>
「在来種を助けつつ肥料にできれば化学肥料を使うことなく節約にもなるし、地球環境にも優しくできると思う」
外来生物を農業に生かす新しい発想で、「トンボの楽園」の環境を守る動きが加速しています。磐田農業高校では2024年、長芋を育てていて、たい肥の効果を確認しています。また、アカミミガメのたい肥について、専門機関に依頼し成分調査を行うとしています。
成分調査の結果次第では、磐田農業高校で使われるたい肥を桶ヶ谷沼で捕獲したアカミミガメのたい肥に置き換えていきたいとしています。