アメリカザリガニの放流・譲渡禁止:釣りや料理はこれまで通り、豊洲では1キロ3000円の高級食材

昭和初期に日本に持ち込まれたアメリカザリガニ。環境への悪影響のため、輸入や放流、販売目的の飼育と譲渡などが禁止になる方向だ。規制案の内容について、ザリガニ釣りを愛する筆者が解説する。川本 大吾

水辺の厄介者・アメリカザリガニ

50代の筆者にとって衝撃的なニュースが、2022年1月中旬に飛び込んで来た。クワガタに次いで、子どものころから大好きな「アメリカザリガニ」に関するものだ。

中央環境審議会は生態系への影響が深刻なアメリカザリガニについて、アカミミガメ(ミドリガメ)と同様、「輸入禁止」のほか「野外放出禁止」、さらに「販売目的の飼育と譲渡」も禁止すべきという答申を取りまとめた。これを受けて、今通常国会で外来生物法の改正案を審議。早ければ、23年春には新たな規制が導入される。

戦前から日本に定着しているアメリカザリガニは、自然界で相当な厄介者。繁殖力が非常に強く、水辺の昆虫を食べ尽くすばかりか、小魚や両生類がすみかとする水草などを食べたり、はさみで切ったりしてしまうため、水質の浄化作用も低下させる。

にもかかわらず、アメリカザリガニはこれまで、飼育や保管、運搬などが禁止される「特定外来生物」の指定を見送られてきた。その理由は、ペットとして飼育するザリガニを小川や池に捨てる人が続出し、被害が一層拡大する懸念があるためだ。今回の2種の規制では、ペットとしての飼育や譲渡が可能な新たな枠組みを設けるという。

ただ、野外放流や販売目的の飼育と譲渡の禁止と聞いて、戸惑った人が多くいるのではないか。筆者も「ザリガニ釣りは、もうできない?」と早とちりした。環境省の担当者に確認すると、あくまでも本格的な審議はこれからで、新聞記事だけでなく「答申もそこまで細かく書いていませんからね」とあっさり。さらなる勘違いや誤解が生まれないように、この段階で言えることをお伝えしたい。

ザリガニ釣りを手軽に楽しめなくなる?

昭和世代にとって、ザリガニ釣りは子どもの遊びの定番だった。小さな池や田んぼの用水路へ出掛け、駄菓子屋で買ったイカを糸の先に結び付けて水中に放り込めば、時間を忘れて没頭してしまう。赤黒く大きなアメリカザリガニは人気で、食いついた時には興奮が抑えられなかった。今でも公園の池で、ザリガニ釣りに興じる親子連れの姿をたまに見掛ける。父親が得意気な表情で子どもに教えているのが微笑ましい。

釣りを楽しんだ後は、バケツごとひっくり返して元の池に放した経験もあるだろうが、今回の規制で放流禁止となれば「持ち帰り」が原則となるのか? アメリカザリガニは共食いすることが多く、夏場は腐臭もひどいので、飼育はしたくないという声もよく聞く。電車移動の場合は、周囲の人の迷惑を考えると、持ち帰るのも気が引ける。たくさん釣れても手放しで喜べず、もはや手軽なレジャーとは言えなくなる。

キャッチ&リリースはOKに

ザリガニ釣りの現状について、都内を中心にいくつかの公園の管理事務所へ問い合わせてみた。釣りそのものを禁止している公園もあり、対応はまちまち。アメリカザリガニは冬眠するため、この時期に釣る人はほとんどいないが、動きが活発な夏場にも「あまり見かけない」との回答が多い。「10人ほどいる日もある」という公園では、「園内の生物は持ち帰り禁止になっている」そうだ。

「持ち帰り禁止」で「放流禁止」となれば、釣り自体が禁止も同然。環境省の担当者に確認すると「ルールは各公園が設定している」としつつ、商用に飼育するアメリカザリガニの野外放出は規制される方向だが、釣った池に放す「キャッチ&リリースは問題ないのではないか」という。特定外来生物に指定されているブラックバスでも、キャッチ&リリ-スは全面禁止となっていないからだ。釣りを禁止していない公園や野池ならば、引き続き気兼ねなくザリガニ釣りを楽しめるわけで、少々肩透かしを食らった気がした。

流通量が減少、キロ3000円の高価に

一方、「販売目的の飼育と譲渡」の禁止に関し、頭をよぎったのが東京・豊洲市場(江東区)での流通禁止だ。築地市場時代の2009年夏に取材し、アメリカザリガニは過去10年で、卸値が2倍の1キロ当たり2000円を超える高値に張り付いているという記事を書いた。

さらに十数年が経過し、豊洲市場では夏場にはキロ3000円近くまで上昇。同市場の仲卸に聞いてみると、最近でもフランス料理や中華料理などに使われているそうだ。価格の上昇は、年々仕入れにくくなっているから。茨城県でアメリカザリガニを扱う水産会社は「農薬の影響で生息数が激減した」と原因を語る。生息場である田んぼ自体が減っており、用水路などの整備が進んで水はけが良くなったことで、繁殖もしにくい状況だという。

豊洲の仲卸は「夏場には注文がたくさん入るが、入荷が不定期で少ないため、昨年から受注を断るようにした」といい、市場流通は先細り。料理店では主に市場外流通、いわゆる「産直」などで、ザリガニを仕入れて提供しているようだ。それも今後は途絶えてしまう可能性があるのか――。

ウチダザリガニや上海ガニの同様の許可制に

2006年に特定外来生物に指定された「ウチダザリガニ」は、今でも料理店のメニューに残っている。都内ホテル内のレストランでは、ボイルしたウチダザリガニを長年提供しており、「アメリカザリガニよりも大きく、値段も安いため、人気のメニュー」なのだとか。

環境省の担当者は「規制前から食用として扱っている場合は、生業維持の観点から許可を得れば扱うことができるだろう」と説明。ウチダザリガニと同時に特定外来生物の指定を受けた上海ガニも同様だといい、規制前に取り扱い実績を持つ業者は、輸入や販売の許可を受けている。アメリカザリガニの場合も、飲食店から姿を消すわけではないようだ。

中国では近年、若者を中心にアメリカザリガニ料理「麻辣小龍蝦(マーラー・シャオロンシア」が大人気。特に旬を迎える夏は、ピリ辛の味がビールとの相性も抜群なため、爆発的な売り上げを記録するという。都内でも中国人留学生の多い高田馬場や池袋などで、ザリガニ料理を出す中華料理店がどんどん増えている。日本でもブームの兆しがあるだけに、自然環境や生態系をしっかりと守りながらも、柔軟性のある規制となることを期待したい。

【Profile】
川本 大吾 KAWAMOTO Daigo 時事通信社水産部長。1967年東京生まれ。専修大学を卒業後、91年時事通信社に入社。水産部で築地市場、豊洲市場の取引を25年にわたり取材。著書に『ルポ ザ・築地』(時事通信社、2010年)。

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