2005年01月31日

支局長からの手紙:残りの生態系を守る/高知

 日本固有の生態系や人間、農作物に被害を与える外来種を規制する特定外来生物被害防止法が今年6月に施行されますが、オオクチバス(ブラックバス)の「外来生物指定」をめぐり、釣りの愛好家や釣具メーカーなどと行政や自然保護団体などの間でホットな論議が起こっています。

 今月19日の環境省の発表では、バスは輸入や移動、飼育が規制される「外来生物」のリストから外されていました。「すぐに指定すると釣り人や業界に混乱が生じる」というのがその理由。しかし2日後、小池百合子環境相が「指定が望ましい」と発言すると、同省は一転してリストに入れる方針を固めました。このため、法の施行に反対していた釣り人らの反発が強まり、あるホームページの掲示板では400通近いメールが寄せられて、その是非が論議されています。
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 外来種とは、海外の原産地から人間によって意図的または偶然に運ばれ、国内に定着した植物や動物のことで、環境省は昨年6月から、植物、昆虫類、魚類、は虫類・両生類、ほ乳類・鳥類、無せきつい動物の六つの専門家会合を設けて、どの外来種を指定するか検討してきました。バス以外ではいまのところ、アライグマやタイワンリス、アカゲザルなど十数種類が指定されるようです。
 もし指定された動植物を、国の許可なく輸入、移動(放流)、飼育などをした場合は、企業などの法人では最高で1億円の罰金、個人には3年以下の懲役か300万円以下の罰金が科せられますから、かなり厳しい法律と言えるでしょう。
 その十数種類の中でバスが注目されるのは、釣りの愛好家が300万人もいて、市場規模が1000億円になるためです。環境省が当初“弱腰”になったのも、業界の意向を受けた議員のロビー活動があったためとの憶測もあります。バスは現在、全都道府県で生息が確認され、国土交通省が管理している全国123河川では7割の川で見つかっています。もはやバスを日本から駆逐することは不可能でしょう。1925年に最初に移入された神奈川県の芦ノ湖では、「バスフィッシングは重要な観光資源」として、地元の漁協や観光協会などが“特例”を認めるよう訴えているそうです。
 賛成派、反対派。それぞれの意見はよく分かります。ただ私が気になるのは、バスの生息域の拡大が自然繁殖よりも、いまだに行われている違法な放流に頼るところが多いことです。
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 十数年前、大阪府南部の山あいにある小川へ、息子たちとフナ釣りに出かけたことがあります。小さな淵(ふち)に釣り糸を垂らすと、釣れるのはバスばかり。琵琶湖でバスが大繁殖してからまだ10年そこそこだっただけに、「こんな山間部にまで、生息し始めたのか」と驚いたことを記憶しています。
 結局、息子たちは童謡「故郷(ふるさと)」で歌われているような「小ブナ釣り」を経験せずに大きくなりました。一部の心ない人の行為であっても生態系の破壊がこのまま進むなら、バスがまだ生息していない「残りの河川や沼」を守るためにも、何らかの法的規制は必要なのではないでしょうか。【高知支局長・佐々田剛】1月31日朝刊(毎日新聞)

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Posted by jun at 2005年01月31日 19:58 in ブラックバス問題

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