2005年01月23日

環境保全の川づくり明確化 淀川流域委 第1期終了

 琵琶湖・淀川水系の河川整備のあり方について4年間にわたり検討を重ねてきた淀川水系流域委員会(委員長・芦田和男京都大名誉教授)は22日、京都市左京区で会合を開き、ダムに関する意見書などを国土交通省近畿地方整備局に提出して第1期の活動を終えた。

 委員会の最大の仕事は、治水と利水が目的だったこれまでの川づくりに、環境の保全と回復の視点を明確に位置づけたことだろう。多様な命をはぐくみ、子どもたちが泳げるような川へ。委員会は今後メンバーを入れ替え、新たな川づくりの「ご意見番」として活動を続ける。
 「自然環境の保全、再生へと大きく川づくりのかじを切った。新しい川づくりが、淀川から始まった」。この日の委員会終了後の記者会見で芦田委員長は述べ、胸を張った。
 委員会が2003年1月にまとめた「提言」は、各地に衝撃を与えた。ダムは自然環境に重大な悪影響を与えるとして、「原則として建設しない」との方針を打ち出したのだ。近畿地方整備局などは丹生ダム(滋賀県余呉町)や大戸川ダム(大津市)など5つのダム事業を進めていたが、この提言を受けダム本体工事を中断、現在は事業継続の是非を検討している。
 ■川が川をつくる 
 この日提出した意見書では、新規建設中のダムは本体工事を中断したままダム以外の治水方法の検討を進め、環境保全の視点に立って早急に結論を出すよう求めた。個別のダムの是非は明言しなかったが、意見書をまとめた今本博健京都大名誉教授は「提言で示した方針はいささかも変わっていない」とし、同整備局に建設中止を含めた決断を強く促す内容となった。
 委員会が目指す川は、高度経済成長期以前の姿だ。川は流れのままに蛇行し、ふちや瀬があり変化に富んでいた。魚の遡上(そじょう)を妨げるせきやダムは今ほどなく、川岸はさまざまな植物をはぐくみ、魚類の産卵、成長の場になった。子どもは川で泳ぎ、人々はその恵みを受けて暮らしていた。委員会は「川が川をつくる」とし、なるべく人の手を加えない河川整備を提唱している。
 整備局も環境に配慮した事業を始めている。淀川下流では、河畔の入り江「ワンド」の復元を進め、干潟の造成やヨシ原の復元にも取り組んでいる。桂川や木津川などではアユの遡上を調査し、せきや魚道の検討も始めた。
 ■水害回避策を 
 治水も委員会の重要な課題だった。水害で最も恐れられる事態は、堤防が決壊して濁流が住宅地を襲い、逃げる間もなく人がおぼれ死ぬことだ。昨年の新潟や福井、兵庫の水害は、いずれも堤防が切れて大被害をもたらした。委員会は「いかなる大洪水でも壊滅的被害を回避、軽減すること」を最重点に、堤防強化を強く訴えている。 
 一方、ダムや長大な堤防で洪水を押さえ込む治水は環境面、実現性に問題があると指摘。危険地域は宅地開発を抑制するなど、洪水を前提とした対策も必要とする。委員の嘉田由紀子京都精華大教授は「洪水と水害は違う」という。防災意識の向上や水防組織の再構築、警報・避難システムの整備など「洪水を水害にしない取り組みが必要」とソフト対策を訴える。
 委員会は今後、メンバーを入れ替え活動を続ける。提唱した理念をどう現実のものとさせていくか。引き続き力量が問われる。
 【淀川水系流域委員会】 環境保全や住民参加を盛り込んだ河川法改正に伴い、今後20−30年の具体的な河川整備の内容を示す「河川整備計画」策定に向け意見を聞く場として、近畿地方整備局が2001年2月に設置した。河川工学や環境学、市民団体などさまざまな分野の委員52人で構成。これまでに約380回の会合を重ね、整備計画の策定や進行中の事業について意見を述べてきた。同整備局はダム事業の方針を固めていないため、まだ河川整備計画を決定していない。(京都新聞)

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Posted by jun at 2005年01月23日 23:30 in 内水面行政関連

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