2005年11月10日

ラムサール条約・締約国会議:奥日光登録 注目度上がり、保護・観光に期待 /栃木

 ◇内外の注目度上がり、保護・観光の期待高まる
 ◇国立公園・世界遺産に加え、国内初の3冠−−真杉・日光市長「誇り一つ増えた」
 「奥日光の湿原(戦場ケ原、小田代原、湯ノ湖、湯川)」がラムサール条約(特に水鳥の生息地として国際的に重要な湿地に関する条約)に登録されたことを受けて、日光市の真杉瑞夫市長などは8日、同市役所で会見し、「(国立公園と世界文化遺産に次いで)誇りが一つ増え、感激にたえない」と歓迎した。国立公園と世界遺産に加えて、ラムサール条約の登録湿地の三つを抱える自治体は国内で初めて。市は来月10日、記念式典などを開く。今後、国が直接、保護を担うが、市は観光などにどう生かすか、取り組みが問われる。【浅見茂晴】

 市には8日午後2時前、環境省から登録されたことが伝えられた。その後、真杉市長が会見し、「世界的にかけがえのない場所と認められたことを市民のみならず、県民とも喜びを分かち合いたい」と述べた。
 同条約登録で、国内外からの注目度が上がるほか、指定地域の保全と利用についての議論や取り組みが活発化することなどが予想される。市の取り組みについて、真杉市長は「賢明な利用、積極的な学習・交流の推進、観光振興に努めたい」と決意を語った。
 また、同席した湯元自治会の大類隆男会長は湯ノ湖で問題となっている外来種の水草、コカナダモの問題を念頭に「水質を改善していくいい機会であり、登録は大変ありがたい」と、今後も水質保全に努力していく考えを述べた。一方、中宮祠自治会の小島喜美男会長は「今回、中禅寺湖が指定されなかったが、今後広がるように期待したい」と抱負を語った。
 ◇指定地域を原則禁煙に−−日光市
 市は登録区域を、03年5月に施行した「市環境美化都市に関する条例」の重点区域に指定し、原則禁煙とする方針だ。
 登録区域は日光国立公園内にあり、自然公園法の特別保護地区に指定されているが、同法条文には喫煙の禁止は明文化されていない。
 市条例は罰則規定はないが、市全域を吸い殻のポイ捨て規制区域としている上、世界遺産に指定されている日光東照宮など2社1寺がある山内地区を、歩きたばこを禁止する重点区域としている。市は登録湿地にも、この重点区域を拡大し、宿泊施設など灰皿が設置してある場所以外を原則禁煙とする。
 ◇「自然が認知された本物の観光目指す」−−日光観光協会会長
 日光観光協会の新井俊一会長は、日光市の会見に同席し、ラムサール条約への登録は「観光業者にとっても、喜ばしい」と歓迎した。「日光の自然が認知された本物の観光を目指したい」と述べ、観光客を呼び込むための、新たなテーマとなることを期待している。「今後は、自然を残しながら、観光地づくりをしていきたい」と抱負を語った。
 同市の発表では、昨年市内を訪れた観光客は602万1000人で、前年より11万6000人(1.9%)減。宿泊客数も120万268人で、前年より5万2622人少なく、4年連続の減少となるなど、観光客は世界遺産登録後の00年にいったん増加したものの、減少傾向が続いている。
 ◇「一層のイメージアップにつながる」−−知事
県は湿原を保護するため、93年から戦場ケ原から中禅寺湖へ向かう市道への車の乗り入れを規制し、低公害バスを導入してきた。福田富一知事は会見で「ラムサール条約と世界遺産という二つの財産を持つのは那覇市と日光市のみ。一層のイメージアップにつながる」と登録を喜んだ。【関東晋慈】
 ◇登録地、計260.41ヘクタールの国有地−−湿原性植物100種類以上、貴重な鳥類175種も
 ラムサール条約に登録されるのは、戦場ケ原(260ヘクタールのうち国道120号の西側174.4ヘクタール)と小田代原(45ヘクタール)、湯ノ湖・湯川(41.01ヘクタール)の計260.41ヘクタール。すべてが国有地で、日光国立公園特別保護地区に含まれる。
 戦場ケ原は標高1400メートルに広がる本州最大の高層湿原でワタスゲやレンゲツツジ、ホシザキシモツケなど100種以上の湿原性植物が確認されている。湿原から草原への移行過程にある小田代原と一体となって、オオジシギやノビタキなど貴重な鳥類約175種が確認されている。
 オオジシギは県の「絶滅の危機に瀕(ひん)している」絶滅危惧(きぐ)1類(Aランク)、環境省の準絶滅危惧種に指定されている。日本のほか、サハリンや千島列島で繁殖し、冬季はオーストラリアなどに渡る。県の調査では86年、戦場ケ原など県北部で49羽が確認されたが、03年には同じ範囲で14羽が確認されただけだった。近年、個体数が著しく減少している。
 ノビタキは県の「存続基盤が脆(ぜい)弱(じゃく)」な準絶滅危惧種(Cランク)に指定されている。ユーラシア大陸からアフリカ大陸に分布し、日本には本州中部以北に夏鳥として飛来する。戦場ケ原では普通に見られ、04年には遊歩道沿いに24羽を観察した。
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 「奥日光の湿原」について、戦場ケ原で生まれ育った吉田国男さん(67)と、日光市山岳連盟会長で日光地区商工会議所の大久保勝・専務理事(66)に、思いと保護など今後のあり方を聞いた。
 ◇奥日光全体を考えよう−−戦場ケ原在住・吉田さん
 戦場ケ原近くの光徳牧場に生まれた。「子供のころ、車は通らなかった。中宮祠から湯元に向かう道の両側には、湿原で見られるオオアゼスゲが丸く株を作ったヤチボウズが数多くあり、今と違う風景だった」と振り返る。
 戦場ケ原に72年、ペンションをオープンする。「シカを見るのは1年に一度あるかどうか、見たら話題になった」。ところが、90年代ごろから、シカを見る機会が多くなった。「周囲の山に登ると、戦場ケ原にシカの通り道が縦横に走っているのが分かる」という。木の皮やクマザサがシカの食害に遭っている。「植生や生態系に変化はないのか、素人ながら気になる」という。
 「(いろいろな問題を)整理する時期にきたのではないか」。中禅寺湖漁協の専務も務める。湯川は湯ノ湖から中禅寺湖に流れ込む。登録湿地だけをでなく、中禅寺湖などを含め、奥日光一帯をどう保護すべきが。地域住民が一体となって、話し合う機会を持つべきだと主張する。「何万年もかかって、作り上げられた貴重な自然を、後世に残すことができるか」と危機感を強めている。
 ◇周辺観光地とも連携を−−日光山岳連盟・大久保さん
 奥日光は、木道が整備され、小田代原などへは、一般車両の乗り入れは禁止され、低公害バスが導入されている。一方で、車で簡単にアクセスできる点が、同じ日光国立公園の尾瀬と異なる。子供もお年寄りも障害者も、自然を満喫できる点が大きな魅力だ。「さまざまな規制が早くから導入されたからこそ、豊かな自然が守られ、その努力の成果が、ラムサール条約登録となって表れたのではないか」と歓迎する。
 観光客には「今後はより一層、尊敬の念を持って、自然の中に入ってほしい」と訴え、「小学生など、子供のうちから自然を体験させることが、さらに必要になってくるのではないか」と環境教育の重要性を指摘する。
 今後は、他の登録湿地との違いを、力強くアピールしていくべきだ、と考えている。それには、「鬼怒川・川治温泉や栗山村といった周辺の観光地との連携を図り、相乗効果を生むことができれば魅力がアップする」と言う。

11月9日朝刊
(毎日新聞)

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Posted by DODGE at 2005年11月10日 11:04 in 自然環境関連

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