2005年03月07日

琵琶湖南の水質浄化、94年の渇水転機 透明度、戦前のレベルに

 1994年の琵琶湖大渇水がターニングポイントになって南湖に水草の群落が生まれ、水質が浄化されていることが滋賀県立琵琶湖研究所の浜端悦治研究員の調査研究で分かり、3月末発行の琵琶湖研究所記念誌で発表される。透明度は、戦前のレベルにまで戻りつつあり、「琵琶湖が生きていることのあかし」だという。

 湖底に根を生やし、葉などが完全に水面下にある水草(沈水植物)は、水質が汚濁し、湖底に光が届かなくなると光合成ができず、致命的なダメージを受ける。90年代前半までの南湖では、比較的背丈が高く浮遊しながら繁殖できるコカナダモなど外来種は見かけるものの、センニンモやクロモなど丈が低く種子で繁殖する在来の水草は駆逐される傾向にあった。
 生態系のどんでん返しが起こったのが94年の大渇水。例年にない少雨と猛暑で9月15日には、水位が観測史上最低のマイナス1.23メートルを記録し、平均水深3.5メートルの南湖の水位を下げた。その結果、夏に成長するクロモなどの光合成を助けて多くの種子が生産され、500ヘクタール以下だった沈水植物群落が2002年には3000ヘクタール以上に増え、現在、南湖全体の50%以上に群落が形成されるようになった。
 水草の増加は、湖全体の生態系も変えてしまう。富栄養化が進んだ湖では、アオコなど植物プランクトンが大発生し、湖を汚濁するが、水草の群落は、底泥の巻き上げを妨げ、魚に捕食される動物プランクトンを保護する。増えた動物プランクトンは植物プランクトンを捕食して水質を浄化、水の透明度を増す。
 浜端研究員は「リンや窒素など汚濁原因物質が実際に減っているほか、透明度は戦前のレベルにまで達してきた。水質の悪化と浄化の相転移は、ある域値内で起きる。徹底的なダメージは回復を不可能にするが、長年の浄化運動で琵琶湖の水質を域値内に踏み止まらせたことが功を奏したのではないか」という。
 ■生態系の回復力証明
 渇水によって水草が繁茂し、水質が浄化しつつある琵琶湖南湖の状況は、けがの功名というよりも自然の生態系そのものが自ら回復力を持っていることの証明だ。まさに湖は生きているのだ。
 琵琶湖研究所の浜端悦治研究員によると、生態系の相の転移は、2001年に米国のシェファー博士らが科学誌『ネイチャー』で示したモデルだが、南湖は、これを実証しているわけで、水質の汚濁がいったん浄化に転ずると、相乗効果で浄化が進む。極端にいえば、湖から魚を取り除けば、動物プランクトンが植物プランクトンを捕食して浄化し、水草を取り除けば汚濁が進むのだという。ただ、相転移は、ある域値内でしか起こらない。
 水草群落の顕著な増加は、1994年の大渇水だけでなく、その後も続いた低水位と水草の生態にマッチした水位の変動が大きな影響を及ぼしたそうで、群落の増加とともに、これを食べるコハクチョウなどの水鳥も増えているという。
 琵琶湖は、93年にラムサール条約の登録湿地にも指定され、湖辺も含めた環境・生態系の保護が課題になっている。生きた生態系を維持し、回復力ある環境を保全するには、動植物を含めた生物の多様性を保つことが肝要だ。
 水草の増加は、人間生活にとって必ずしもいいことずくめではない。漁業を妨げることもある。しかし、浜端研究員は「いましばらく、がまんしてほしい」と訴える。水質がさらに回復し、背丈の低い在来種が優占種となれば、昔の豊かな湖が取り戻せるはずだという。
(京都新聞)

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Posted by DODGE at 2005年03月07日 11:47 in 自然環境関連

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