「カニなどの生物が海洋ウイルスを除去する働きをもつ」との研究結果

──海水1ミリリットル中に1000万ものウイルスが含まれることもある
 海洋環境には無数のウイルスが存在する。米オハイオ州立大学の研究チームが2019年4月に発表した研究論文では19万5728種の海洋ウイルスが特定されているが、これらはほんの一部にすぎない。


 海水1ミリリットル中に1000万ものウイルスが含まれることもある。そしてこのほど、海洋で生息する非宿主生物が、海中のウイルスを除去する働きを持っていることが明らかとなった。
■ ナミイソカイメンはウイルスを効果的に除去し続けた
 オランダ海洋研究所(NIOZ)の研究チームは、カニや牡蠣、海綿動物など、海洋で生息する10種類の非宿主生物を対象にウイルスの除去効果を評価し、その結果を2020年3月23日、オープンアクセスジャーナル「サイエンティフィック・リポーツ」で公開した。
 研究チームは、植物プランクトン「ファエオキスティス・グロボサ」に感染する海洋ウイルス「PgV-07T」を用い、イソギンチャク、フジツボ、カニ、ザルガイ、ムール貝、牡蠣、ホヤ、ナミイソカイメン、カイアシ類の成体、多毛類の幼虫の10種類の非宿主生物においてウイルス量が減少するかどうか検査した。
 その結果、フジツボ、ムール貝、カイアシ類以外の非宿主生物では「PgV-07T」のウイルス量に有意な変化が認められ、ウイルス感染から防御する働きがあることがわかった。なかでも、ナミイソカイメンは、3時間でウイルス量を94%軽減し、24時間で98%まで減少させた。同じく24時間でカニは90%、ザルガイは43%、牡蠣は12%、それぞれウイルス量を減少させている。
 ウイルス量を大幅に減少させたナミイソカイメンを対象に、一定期間にわたってウイルス量を減少させ続ける働きがあるのかどうかも検証した。20分ごとに6時間にわたって「PgV-07T」を与えたところ、ナミイソカイメンはこのウイルスを効果的に除去し続けたという。
■ 非宿主生物のウイルス除去作用は、これまで見落とされてきた
 研究論文の筆頭著者であるオランダ海洋研究所のジェニファー・ウェルシュ客員研究員は、「実際の海洋環境は、実験室よりもずっと複雑で、これら10種類の非宿主生物にも様々な生物が生息し、相互作用している」としながらも「非宿主生物のウイルス除去作用は、これまでウイルス生態学において見落とされてきたのではないか」と指摘している。また、一連の研究成果は、水産養殖における感染症対策にも応用できるのではないかもと考えられている。
松岡由希子
+Yahoo!ニュース-国際-ニューズウィーク日本版