野生動物と人間の生活の境界線が曖昧になっている現在。街中では、可愛らしい見た目ながら “凶暴”な動物との遭遇情報が相次いでいる。その正体は特定外来生物のアライグマ。SNSでも、目撃者から困惑の声が出ている。
《かわいいけど害獣なんですよね泣》
《猫感覚でかわいいーと近寄るとバチクソ威嚇してきた》
《屋根裏がうるさくて罠を置いたらかかったけど……どうしよう……》
9月13日には東京都墨田区にも出現が確認され、警察署が注意を呼び掛ける事態に。
また、実際にアライグマに噛みつかれ、怪我を負ったケースもあった。
「岡山県では8月に、犬の散歩中に15か所を噛まれたという事例も確認されています。服も破かれ、頭からも血が出るほどの怪我ということで、小動物とは思えぬ攻撃性がうかがえます」(全国紙社会部記者)
アライグマといえば、北アメリカ原産の動物のはず。なぜ彼らが、日本で頻繁に目撃されるようになってしまったのか――。「背景はあの“人気作品”なのでは」と話すのは、動物研究家のパンク町田氏だ。
「それまでもアライグマの輸入事例はありましたが、『あらいぐまラスカル』(フジテレビ系列)の放送を機に、アライグマの人気は爆発的に上がりました。可愛らしいキャラクターに、“ウチでもお迎えしたい”と飼育を始めた家庭も急増したはずです」
国立感染症研究所によると、『あらいぐまラスカル』が放送された1977年から狂犬病予防法上の検疫対象となる2000年まで、多い年には年間1500頭を数えるアライグマが無検疫で輸入されていたというデータもある。
加えて、イヌやネコと比べてもアライグマの飼育は難しく、成長につれて手に負えなくなる人が続出した。
「愛くるしい見た目ですが、性格はかなりパワフル。普段から取っ組み合いのような激しいやり取りをする動物なので、人馴れしている個体でも気に入らないことがあれば強い力で反抗します。しつけで“我慢”を理解できるイヌとは、この点が大きな違いです」(前出のパンク氏)
また、アライグマの牙はイヌと異なり、細く鋭利なもの。人間の皮膚も簡単に裂けてしまうことからも、トラブルは頻繁に起きていただろうと推測する。
「一緒に飼っていたインコが食べられた、というような話は昔よく聞きましたし、私自身も飼育していた頃には、何針も縫うような怪我をしたことがありました」
■在来種を淘汰しかねない
子どもの頃は可愛かったアライグマが、成獣になる頃には気性の荒い本性を出てきた。その末に、面倒が見切れずに山や公園に放ってしまうという事例が発生したのだという。
「特に、当時はペットを“棄てる”ことへの取り締まりが厳しくない時代でした。飼いきれなくなったから逃がした、という行為は珍しいことではありませんでした」(以下、カギカッコのコメントはすべてパンク氏)
実際に、動物愛護管理法でペットの“遺棄罪”の罰則強化が施行されたのが2000年、“終生飼養”を飼い主の努力義務として明文化したのが2013年と極々最近のこと。その間にアライグマをはじめ、多くの外来種が国内で繁殖してしまった。
「ちなみに、アライグマが日本でここまで繁殖できた理由は、その適応能力の高さでしょう。暑さにも寒さにも耐性があるので日本の環境は苦ではないはずですし、都市部を中心にエサになる生ゴミも豊富なので、数も増えてしまったのではと思われます」
アライグマがもたらす害としては、農作物やニワトリなどを食べてしまう「食害」、家などを糞で汚す「糞害」などがあるが、さらに深刻なのは“在来種を淘汰しかねない”という問題だ。
「在来種の爬虫類や両生類を食べ尽くしてしまう懸念や、生活圏が重なるキツネやタヌキなどの哺乳類を追いやってしまう可能性があります」
タヌキやキツネを脅かしてしまう理由としては、その生活形態と性格が考えられるという。
「アライグマは家の屋根裏に忍び込んだり、パイプを駆け上がったりできるなど、立体的な動きに優れていてキツネやタヌキより活動範囲が広いんです。またエサの取り合いの際には、アライグマの方が我が強く、周りを追い払ったり独占しようとしたりする傾向が強い。こうした行動特性の違いは、在来種との競争では無視できません」
かつて“ペット”として愛されるため日本にやって来たものの、いまや“害獣”と忌避される存在となってしまったアライグマ。その可愛らしさと持ち込まれた背景に、思わず手を差し伸べたくもなるが……。
「とにかく触らない、近寄らない。アライグマ回虫などの危険な感染症のリスクもあるので、接触してはいけません。また、危険を感じると立ち向かってくることもありますから、極力近づくのもやめましょう」
どんなに愛くるしい“ラスカル”に見えても、あくまでも野生動物。触ったり自分で捕まえることはせず、まずは自治体に相談することが大切だ。
