気象庁は19日、東京都の桜開花を発表しました。そんな中、桜の花びらをちぎって落としてしまう、ある外来種の存在が注目を集めています。都内の公園や住宅地で、鮮やかな緑色のインコが群れをなして飛ぶ姿を目にしたことはないでしょうか。ペットとして輸入されたインド原産の外来種ワカケホンセイインコは、今や都心部を中心に数千羽規模で定着。増加する“野生化インコ”の実態と、生態系や人間社会への影響について、長年調査を続ける公益財団法人日本鳥類保護連盟の松永聡美主任研究員に詳しい話を聞きました。
都心に定着した2000~3000羽すべてが一か所に集まることも
ワカケホンセイインコはペットブームに乗じて輸入され、様々な理由で逃げ出し、1970年頃から野生化して日本各地で目撃されるようになりましたが、現在では東京、埼玉、神奈川の大きなグループと群馬と千葉にそれぞれ小さなグループが定着しているのみとなっています。その中で東京を中心としたグループは個体数が増えつつあります。
83年11月に帰化鳥類研究会が実施したカウント調査では514羽だった個体数が、2024年には東京農工大との共同研究により3000羽を超える数が確認されています。ここまで定着できた大きな理由の一つは、寒さへの耐性です。原産地のインドでも標高の高い地域に生息しており、他のインコ類と違って寒い日本の冬でも越冬できてしまいます。また、食性の広さも要因でしょう。春には桜の花蜜、初夏にはサクランボ、秋には柿の実、冬には冬芽や新芽と、1年を通じてさまざまなものを食べます。
気になる「害」についてはどうでしょうか。前述した通りワカケホンセイインコは集団でねぐらを取る習性があり、場合によっては都心に定着した2000~3000羽すべてが一か所に集まることもあります。鳴き声も大きく、騒音やフン害は問題となっています。また、この時期よく話題になるのが桜の花の食害。花ごとちぎって蜜をなめ落としてしまうため、本来よりも早く花が散る原因となってしまいます。桜の花が受粉できなくなる懸念もありますが、都内に多いソメイヨシノはもともと実のならない品種なので、木へのダメージが深刻となることは少ないと感じます。
在来種との競合も気になるところ。ムクドリやアオゲラと巣穴を奪い合う様子は目撃されていますが、それらの在来種が急激に減っているという報告はありません。アライグマやブラックバス、アメリカザリガニなどのように、危険性や生態系への悪影響から「根絶しなければ」というほどの状況には至っていないと考えられます。
感染症の媒介や農業被害に懸念 一方、センセーショナルな報道には弊害も
一方で、注意しておきたいのがオウム病の媒介リスクです。オウム病はインコ、オウムだけではなく、ほとんど全ての鳥に自然感染があります。鳥の乾燥したフンや羽毛に含まれる菌を吸入することで発症し、高熱や頭痛、肺炎などを引き起こします。特に妊婦がかかると重篤化する傾向があり、死亡例もあります。ただ、人への感染はまれなので、過度に恐れすぎる必要はありません。インコのフンが多いところではマスクを着用し、清掃などでフンに触れた際は手洗いうがいをするようにしましょう。
現在、ワカケホンセイインコは鳥獣保護法の対象であり、無許可での捕獲は禁止されています。駆除を行う場合も申請が必要で、今のところ組織的な駆除の動きはありません。大切なのは、庭先の餌台をインコが入れないケージで囲うなど、「これ以上増やさない」ための対策。もし、将来的に特定外来生物に指定されれば、飼育規制や駆除の動きが進む可能性もありますが、現段階ではそこまで人や生態系に影響を及ぼす存在ではないと思います。
この先懸念されるのは、個体数がさらに増えた場合の生息域の拡大。イギリスではすでに1万羽を超え、ねぐらが各地に分散して個体数の把握も難しくなっています。現在、関東の個体群は埼玉北部までは達していませんが、そこまで広がると果樹やひまわり畑など農地への農業被害が拡大する恐れがあります。都内近郊のように農地が狭ければネットでの対策もできますが、広大な農地ではそれが難しいため、生息域を拡大させないことが大切です。
報道では「危険生物」と過度にあおるような取り上げ方をされることもありますが、センセーショナルな報道によって苦情が増え、ねぐらの木が剪定(せんてい)されてしまうと、かえって生息域を拡大させる要因にもなりかねません。現在のように、ねぐらが一か所に集中していることが、ある意味で個体数の増加に歯止めをかけている面もあると考えています。ねぐらが分散すればむしろ分布域が拡大し、今まで利用できなかった巣穴や餌資源を獲得することにより、繁殖が進んでしまう可能性もあります。
ワカケホンセイインコは確かに外来種であり、野放しにしていてもよい存在ではありません。ただ、現時点での影響は限定的。大切なのは、実態を正確に把握しながら、感情的にならずに向き合っていくことではないでしょうか。
