2006年10月15日

地上産マグロ、水揚げ間近? 地下塩水使い養殖実験成功 東海大など

 すしや刺し身に欠かせないクロマグロ(本マグロ)を地上の水槽で養殖する実験に東海大と静岡県の民間企業が取り組み、地下塩水を使うことで、ネックとなっている水温管理のコストを抑えることに成功した。より安いエサで育てることが当面の課題だが、富裕層が台頭する中国や欧米での消費の高まりに加え、乱獲による個体数の減少で天然のクロマグロの価格は高騰の兆しをみせており、実用化すれば安価で安定的なマグロの供給が可能になると期待されている。(今泉有美子)

 実験を行っているのは東海大学海洋学部の秋山信彦教授(水産増殖学)とシステム開発会社「WHA」(静岡県焼津市)。9月上旬から、海洋学部のある静岡市清水区で地下約50メートルから地下塩水をくみ上げ、直径5メートルの円形水槽4つでクロマグロの幼魚約100匹を飼育している。

 従来の海での養殖では、エサなどが海底にたまり環境を悪化させるといった問題があった。一方、地上での養殖は、クロマグロの生育に最適といわれる水温21℃前後を保つのに膨大な燃料費がかかるのがネックとなっていたが、秋山教授は水温が一年を通じてほぼ一定の地下塩水に着目。「燃料費の問題をクリアできるだけでなく、地中で濾過(ろか)される地下塩水は無菌状態のため、抗生剤など高額な薬代も必要なくなった」(秋山教授)という。排水は濾過して海に戻すため、環境上の問題もほとんどないという。

 クロマグロは1年間で約60センチ成長し、1年半〜2年でマグロとしてのうまみが出る1メートル(30〜40キロ)ほどに育つが、運動量が多いため1キロ増えるのに22キロのエサが必要。マグロがエサとしているイワシなどに代わり、大豆など安価なエサで育てる技術が地上養殖の課題として残されている。

 クロマグロは、中国をはじめとする海外での消費量増加に加え、原油高にともなう燃料費の高騰で「今年に入って取引価格が1、2割増した」(東京・築地の大手卸業者)。さらに魚の大きさを問わずに捕獲する巻き網漁による乱獲で、脂の乗った大型クロマグロの取引量が減少。この卸業者は「中国の富裕層の数は日本人と同じぐらいになったと聞く。このままでは、良質のクロマグロは中国に全部競り落とされてしまうかもしれない」と不安を口にする。

 「実用化まで少なくとも3年かかる」という秋山教授だが、「陸上での養殖が成功すれば、天候や原油高に左右されず、良質のクロマグロが安定して供給できる。価格の急激な高騰もなくなる」と話す。今後は、より大きな水槽での養殖実験と並行して、地下塩水を取水できる地域の企業や自治体と連携しながら実用化の道を探る。すでに企業からの引き合いもあるという。(産経新聞)

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Posted by jun at 2006年10月15日 22:07 in 魚&水棲生物

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