2006年05月30日

湖国の人たち:オピニオン’06 県琵琶湖・環境科学研究センター、一瀬さん /滋賀

 ◆県琵琶湖・環境科学研究センター 環境生物担当専門員、一瀬諭さん(53)=大津市
 ◇琵琶湖のプランクトンの動態、異常教えてくれるシグナル−−感覚で分かる職人育成を    
 例年琵琶湖で問題になる赤潮やアオコは、プランクトンによるもので富栄養化の進行を表す現象。琵琶湖でプランクトンの観察を続け、その“極小”の世界の動態から、琵琶湖の変化を見続けている人がいる。県琵琶湖・環境科学研究センターの一瀬諭・環境生物担当専門員(53)だ。琵琶湖研究の“職人”の一瀬さんに、プランクトンから見える琵琶湖について聞いた。【服部正法】

 ――琵琶湖にかかわるきっかけは?
 元々水産技術者として県で働くようになったが、77年に県立衛生環境センター(昨春、環境部門は県琵琶湖・環境科学研究センターに統合)に異動し、その年に初めて琵琶湖で赤潮が出た。インパクトがすごかった。メカニズムや毒性があるかどうかも分からず予算もない。当時は唐橋のそばの独身寮に住んでいたが、毎日朝起きると雨の日も風の日も瀬田川に行って水を採って出勤し、プランクトンの写真を撮っては(京大臨湖実験所の)根来健一郎先生(故人)の自宅に押しかけ、分からないものについて口移しで教えてもらっていた。あれから29年、それが今も瀬田川の週2回のプランクトン調査として続いている。
 ――その後の琵琶湖の変化は?
 77年の後は、83年に初めてアオコが出て89年にはピコプランクトンが大量発生。94年には北湖でもアオコが出現と、だいたい5年ぐらいの間隔で現象があった。最近になると99年に大型ミジンコが出現し、00年ごろからエリ網に付着する藻類が増加。北湖の深層で「メタロゲニウム」が02年に見つかったりと毎年のように起こっている。今年は例年に比べ(赤潮を形成する)ウログレナ・アメリカーナが出てこない。これも珍しい。
 ――プランクトンの観察にどのようにのめり込んだのか。
 モニタリング(監視)している間に引き込まれていった。転機は根来先生との出会い。通常の学者だと「これは○○」と説明するところ、深めた人は「これは○○が特徴の○○属の○○」と、より正確に言ってくれる。いい師匠とのめぐり合いがあった。29年間、1週間と空けず休まずに見ていると、「これは北湖にいるけど南湖にいない」とか、季節により発生するものの違いなどが体で分かっている。全国にはけい藻、原生動物と、それぞれの研究者がいるけど、(自分たちは)全部を頭に入れておかないとプランクトンの数を計測できない。ある1週間だけ観察してもその1週間の傾向しか分からない。
 琵琶湖は場所的に「日本のへそ」。北方系のプランクトン、南方系のもの両方が出てきておもしろい。歴史も古い湖で沼地のようなところもあれば深いところもある。春にコブシが青々とし、秋にイチョウやモミジが色づき、落ち葉となる。目で見る山の縮図が湖でも起きている。それがプランクトンの変化。顕微鏡で私たちは四季をモニタリングしている。
 ――琵琶湖のプランクトン全体はどう変化しているといえるのか。
 種類数が減ってきた。一方で昔に比べてらん藻の種類が増えている。より原始的な細胞のものは増えている。琵琶湖が生物多様性がなくなってきているのを感じる。水の汚濁が進んでいるかというと窒素やリンを見るとそうじゃない。何か分からないけど質的に変わってきているように思える。
 ――プランクトンの動態は何を訴えているのか。
 「叫び」なのでしょうね。異常を教えてくれるシグナルだと思う。赤潮が発生し、住民運動が高まって条例も出来た。そのおかげでリンが減ってきた。シグナルを聞いてあげる人がいないといけない。気象台でも同じだと思うがデータも大事だけど、長く監視しているひとは感覚で(シグナルが)分かるでしょう。そういう職人を作っていかないといけない。
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 ■提言
 バイオアッセイ(生物を用いて、有害性などを測定する検査方法)の普及が必要。これまでは水質分析が主でプランクトン調査はおまけのようなところがあるが、仏、独、カナダではバイオアッセイが制度化されている。化学分析のみの水質分析ではコストもかかる。藻類や魚などで安全を確認していく手法、分析に力をそそぎたい。生き物で琵琶湖の本質を見ていくことが必要だ。
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 ■人物略歴?n ◇いちせ・さとし
 福井県高浜町出身。水産技術者としての県醒井養鱒試験場での勤務を経て、77年、県立衛生環境センター勤務。以後、琵琶湖でプランクトンを見続ける。監修した「やさしい日本の淡水プランクトン図解ハンドブック」が好評。環境省の研修所で毎年プランクトンに関する講座の講師も務めている。

5月30日朝刊
(毎日新聞)

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Posted by DODGE at 2006年05月30日 19:05 in 自然環境関連

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