現在、地球上では年間4万種の生物が絶滅しているとみられる。これは、人類が本格的に産業活動などを展開したここ数百年のことで、化石記録から推定する地球の平均絶滅速度の1000倍。言い換えれば、人類が種の絶滅速度を1000倍に加速させているということだ。
地球上のすべての生物が、バランスよく共存している状態を示す「生物多様性」が崩れている。
この深刻な事態を受け、環境省は「生物多様性」を分かりやすく説明するキャッチフレーズを策定した。
それが「地球のいのち、つないでいこう」。フレーズを盛り込んだロゴも作成。未来の世代のために、現在の多様な生命の豊かさを残していこうとのメッセージを込めた。
政府、地方自治体、NGO(非政府組織)の書類やパンフレットなどに使用し、周知を図る方針だ。
これと呼応するように、民間でも住友信託銀行、日本生態系協会、日本総合研究所が共同で、『生態系と生物多様性の経済学 中間報告』の日本語版を作成した。
同リポート自体は、2008年5月にドイツのボンで開かれた「生物多様性条約第9回締約国会議(COP9)」の閣僚級会合で発表されたもの。生態系の破壊や生物多様性の損失がもたらすと予想される経済的な影響などに言及している。
その日本語版の作成も、生物多様性が危機にひんしている実態に警鐘を鳴らそうという狙いからだ。
環境対策といえば、近年は「地球温暖化」問題の防止策に世界の関心が集まっているが、10年10月には、もう一つの重要テーマである「生物多様性」に焦点を当てた国際会議「生物多様性条約第10回締約国会議(COP10)」が初めて日本(名古屋市)で開かれる。
環境省のキャッチフレーズや、住友信託による日本語版リポートの作成は、10年秋のCOP10に向けて、主催国としての、地ならしの意味ももちそうだ。
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【予報図】
■食料、水の調達に多大なコスト
2010年は、国際的に「生物多様性」の節目の年となる。
国連はこの年を「国際生物多様性年」と位置付けたほか、世界の生物多様性の損失速度を“顕著に減少させる”「2010年目標」の達成年でもある。
地球温暖化防止を目指す「気候変動枠組条約」に比べて影が薄い「生物多様性条約」だが、国連で署名されたのは1992年。気候変動枠組条約と同様、ブラジルのリオデジャネイロで開かれた国連環境開発会議(地球サミット)のときだった。
気候変動枠組条約が抱える問題が気温の上昇や極地での氷の融解など、身近な変化として比較的理解しやすいのに対し、生物多様性の危機は日常生活のなかでは見えにくく、印象が薄い。
地球上の生物は、それぞれの複雑な連関のなかで共生している。その多様性が失われることで生態系のバランスが崩れ、大きな影響をもたらすことが懸念されている。
例えば、オオカミなどが絶滅したことで、獲物であったシカの分布が拡大。樹木の樹皮を食い荒らすシカは現在、森林を破壊する害獣として、日本でも北海道をはじめ各地が対策に頭を痛めている。現在の状況を放置すれば、絶滅のスピードはさらに10倍加速するとの予測もある。
事実、住友信託などが翻訳したリポートでも、生物多様性の維持に、対策を講じなければ「2050年には熱帯林の農地転換などで2000年にあった自然地域の11%が地球上から消失」し、「サンゴ礁の60%は早ければ2030年までに消滅」するなどと予測している。
生物多様性が維持されることによって保たれる、適正な生態系から、人間は食料、淡水、土壌浸食の抑制、気候調整などの便益を得ている。生物多様性が失われ、生態系のバランスが崩れれば、私たちは今後、同じ便益を手に入れるのに、多大なコストを支払うことになるだろう。(佐藤哲夫)
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【用語解説】生物多様性条約
(1)地球上の多様な生物をその生息環境とともに保全する(2)生物資源を持続可能であるように利用する(3)遺伝資源の利用から生ずる利益を公平かつ衡平に配分する−ことを目的に、1992年5月に採択。今年10月現在、日本を含む191の国と地域が条約を締結している。
Posted by jun at 2008年12月07日 19:16 in 自然環境関連