2008年12月01日

揺らぐダム:知事が荒瀬ダム存続表明 「現実的判断、将来撤去も」/熊本

 蒲島郁夫知事は27日、12月議会に提案する議案を議員に説明する席上、発電用の県営荒瀬ダム(八代市坂本町)の存続を正式に表明した。県の財政難を最大の理由として挙げ「財政面で環境が整った場合は撤去も考えられる」と将来の撤去に含みも残した。しかし、撤去を求めていた地元住民や漁協、県議会の一部会派からは反発の声が上がった。県は発電用水利権の更新など存続に向けた手続きに入る。【笠井光俊、高橋克哉、伊藤奈々恵、西貴晴】

 蒲島知事は議員への説明の中で、潮谷義子前知事時代に決めた撤去を転換させる理由として「県を財政再生団体にすることはできない。県民全体の夢を傷つけることはできない。存続が現段階で、最も妥当な選択だ」と述べ、理解を求めた。
 一方で、(1)県財政が撤去費用を出せる状況に改善(2)撤去による護岸や道路の安全性の確保(3)農業用水や上水道など撤去で失われる利便性の確保(4)撤去技術の確立――の四つが満たされれば、撤去があり得ると述べた。
 その後の記者会見で、川辺川ダム計画の反対表明時に「球磨川は宝」と表現したことと今回の判断との整合性を問われ「信念として球磨川は宝という思いはあるが、財政について現実的な判断をしなければいけなかった」と説明した。
 住民らが求めている環境保護対策については「極限まで配慮していく」と述べたが、具体策には言及はしなかった。
 将来の撤去については「いつかは分からない」と述べた。
 ◇一問一答
 蒲島知事の記者会見での主なやり取りは次の通り。
 ――撤去に傾いた時期はあったか。
 ◆多くの方と会い、特に旧坂本村の方々の悲痛な叫びを聞くと、撤去しかないのかなと迷った時期はあった。
 ――存続を決断した決め手は。
 ◆県を財政再生団体にすることは絶対避けなければならない。それが、もっとも大きな民意だ。旧坂本村の方々には大変申し訳ないが、極限まで頑張って環境問題や地域振興、水産業振興に取り組み、今以上に環境はよくなると思っている。
 ――なぜこの時期に表明を。
 ◆議会で議論していただくためのぎりぎりのタイミング。議会でこの問題について議論が深まると思う。
 ――議会の議論によって考えを変えることはあり得るか。
 ◆県の幸福量が高くなる案が出れば、歓迎したい。
 ◇「地域振興策を」−−八代市長
 荒瀬ダムの地元、八代市の坂田孝志市長は27日の会見で「苦渋の決断だったと思う。(市長が)イエスとかノートか言う事柄ではない」と述べ、知事判断に対する賛否は表明しなかった。ただ、ダム存続に伴う地域振興策などの説明は不十分だとし「丁寧に市と住民に説明責任を果たしてもらうことが必要だ」と述べた。
 坂田市長は防災、地域振興、漁業振興、環境の四つの対策を挙げて「県から具体的な提示がない」と指摘した。住民への説明や意見聴取も「知事は1回しか地元に来ていない。住民の声をもう少し聞く機会があっても良かったと思う」と語った。
 そのうえで「地域振興策などもっと踏み込んで説明してほしい。いずれ知事が説明に来ると思うので、話をよく聞いて対応を考えたい」と述べた。
 ◇「怒りと寂しさ」−−元村長
 知事表明を受けて県庁を訪れた地元住民からは「知事には期待していたのに……」と失望の声が上がった。
 旧坂本村の木村征男元村長(65)は、県議への説明を終えて廊下に出てきた蒲島知事の前で、抗議文を読み上げた。「川辺川ダム問題の判断を見て荒瀬ダムも撤去を決断すると望みを持ってきた」「県民と県が交わした公の約束(撤去)を簡単に覆していいのか」
 抗議文を受け取った蒲島知事は「(撤去の)条件をなるべく早く整えたい」と答えた。
 木村元村長は会見でも「強い怒りと寂しさがある。今後も撤去を求めて行動する」と述べた。一方で「川辺川ダムに反対した知事の環境に対する姿勢は期待できる。もう一度考え直してもらえるよう訴えて行きたい」と期待もつないだ。
 県漁連の吉岡博秋専務理事も「残念としか言えない。八代海が再生されると期待していたが、環境問題よりも財政という判断がされて再生は難しくなった。不満と怒りが強まった」と話した。理事会で対応を検討するという。
 ◇自民県議団、議論して賛否表明 民主・県民ク「住民は訴訟も」
 知事表明に対し、県議会最大会派の自民県議団は27日、議員団総会を開いたが、議員団としての賛否は出さず結論を先送りした。12月議会の一般質問や委員会などでの議論を経て結論を出す方針だ。
 撤去方針が決まった02年には、撤去を後押しした。党県連幹事長の前川收県議は「県民に期待を持たせた責任は我々にもある。方針転換に一定の理解はするが、不満を持っている人もいる。しっかり議論して結論を出したい」と述べた。
 一方、民主・県民クラブの福島和敏議員は「地元住民が50年以上被っている被害をどう考えているのか。住民は訴訟も辞さない構えだ」と、住民の怒りを代弁して批判した。鎌田聡議員も「県庁プロジェクトチーム(PT)は幅広い検証ができていない。結論は先送りして検討を続けるべきだ」と主張した。
 無所属改革クラブの大西一史代表は「たった半年で、撤去費用が20億円も変わった。今後、金額が変わることはないのか」と県の試算に疑問を呈した。
 公明党は「県の試算が妥当かどうか、吟味していく」として静観する構えだ。
 また、無所属の堤泰宏議員は「川辺川ダムと荒瀬ダムだけに時間を割いていては県全体の浮揚は図れない。決めた以上は責任を持って取り組み、他の施策に時間を割いてほしい」と述べた。
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 ◇蒲島知事の存続表明の骨子◇
一、 深刻な財政危機にある現状では、ダム存続が最も妥当だ。
一、 ダムを撤去せず、生活への悪影響や環境への負荷を最小化していくことを、現実的に考えて対応していくことが重要。ダムから得られる利益を地域の環境向上や一次産業の再生に重点投入。
一、 ダムを未来永劫(えいごう)存続させることが最善とは考えていない。撤去が可能となる条件が整えば、撤去すべきだ。
一、 巨大建造物はいずれ寿命が尽きる。解体撤去にかかる巨額の費用をどう負担するかは大きな問題。国家として取り組むべきだと問題提起していきたい。
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 ■ことば
 ◇荒瀬ダム
 戦後の電力不足を解消するため、発電専用の県営ダムとして1955年3月、球磨川河口から約20キロの旧坂本村(現八代市坂本町)に建設された。約700メートル離れた藤本発電所に導水している。堤高25メートルで、最大発電力は1万8200キロワット。県内での電力供給割合は建設当初16%あったが、現在は1%弱。ダム湖の水質汚濁などの環境問題もあり、2002年に当時の潮谷義子知事が10年3月以降の完全撤去を決め、撤去工法の検討が進められていた。11月28日朝刊

+Yahoo!ニュース-熊本-毎日新聞

Posted by jun at 2008年12月01日 11:32 in 内水面行政関連

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