国土交通省が4ダムを計画する琵琶湖・淀川水系の現状を考える「川の全国シンポジウム―淀川からの発信」(毎日新聞社など後援)が2、3の2日間、左京区の京都大であった。同省近畿地方整備局の諮問機関で「ダム建設は不適切」との意見書を出した「淀川水系流域委員会」(流域委、1〜3次)の委員や知事、国会議員、各地でダム問題に取り組む市民団体メンバーら約640人が参加。河川行政への住民参加を試みた流域委の歩みと、その意義を損なおうとする国の姿勢について考えた。主な発言を紹介する。【太田裕之】
◆流域委員会からの発信
◇ダム計画案「行政の暴挙」 住民意見反映の試み
初日の基調講演では、第1次流域委(01年2月〜)に準備会議から参加し第2次(05年2月〜)で委員長を務めた寺田武彦弁護士が、河川法の97年改正の意義を解説。河川管理者による河川整備計画案作成について、「必要があると認める時は、河川に関し学識経験を有する者の意見を聴かなければならない」(16条の二3項)「前項に規定する場合において必要があると認める時は、公聴会の開催など関係住民の意見を反映させるために必要な措置を講じなければならない」(同4項)との規定を説明し、「行政の意思決定の過程で住民の意見を反映する手続きが盛り込まれたもの。行政の便宜のためではないが、そう誤解している行政の人間が多い」と指摘した。
その上で、同局について「流域委の意見を聴く前に案を作ったのは違法で、法順守が大前提の行政の暴挙」と批判し、「立法の趣旨を無視する動きを監視しなければ」と呼び掛けた。
続く「流域委からの発信」では、1・2次の委員の今本博健・京都大名誉教授(河川工学)が、洪水をダムなどで河川に閉じ込めようとする旧来の治水には(1)対象を超える洪水に対応しきれず壊滅的被害になる恐れが大きい「根幹的欠陥」(2)ダムが社会および自然環境に重大な影響を及ぼす「致命的欠陥」(3)急峻(きゅうしゅん)な地形や脆弱(ぜいじゃく)な地質でダム建設の適地が少ない「構造的欠陥」――があると指摘。
洪水を流域全体で受け止めるように改める必要を説き、「堤防が破れないよう補強するのが最優先課題なのに、河川管理者はあまりに不熱心。越水への補強を真剣に検討せず、洗掘や浸透への補強も計画高水位までにとどめようとしているのが、ダムを造らんがためなら許されない行政の不作為」「基本高水や計画高水位が絶対的かのように取り扱われ治水を矮小(わいしょう)化している」と現状を批判した。
流域委設置を進めた同局の前河川部長で、同省退職後に市民の立場で3次(07年8月〜)の委員長となった宮本博司さんは、97年の河川法改正によって河川管理者の姿勢が「任してください」から「勝手にしません」に変わったと説明。00年の流域委準備会議では、情報の公開と発信の徹底▽オープンな場での準備会議委員による委員選定▽事務局の河川管理者からの独立――を実現し、「住民の不信感を払拭(ふっしょく)する」「行政にお墨付きを与える委員会にしない」ことを心がけたと振り返った。
上司からも「面白そうだ。任すからやれ」と認められた流域委では、河川管理者の同局と委員らが二人三脚で、ダム建設の結論ありきではなく、まず現状と課題を共有化。同局職員も「これが本当の仕事ですね」と目が輝いていたという。「ダムと川で洪水を押さえ込む防災」から「流域治水と堤防強化による減災」へと河川整備の方向転換が図られたと意義を語った。
住民の立場で1次の委員を務めた細川ゆう子さんも「どの学者も偉ぶらず、河川管理者も丁寧に対応した。個人として問題を共有し、先入観を持たずに考え、判断した。みな対等だったからこそ質の高い議論ができた」と評価。住民の立場で2・3次の委員を務めた千代延明憲さんは「すべて情報は開示、審議は公開というやり方は住民の河川行政への関心を高めた」と話した。
だが、同局は変節して08年6月、流域委の最終意見を待たずに4ダム建設を盛り込んだ「河川整備計画案」を発表。千代延さんは「河川管理者の見切り発車で狂わされた」と述べ、1・2次委員の三田村緒佐武・滋賀県立大環境科学部教授も「行政はやはり組織を守るということを示した」と話した。
第3次の委員の山下淳・関西学院大法学部教授は「流域委は失敗」と述べ、河川管理者はかたくなで議論のキャッチボールが成り立たなくなった▽流域委は諮問機関に過ぎず、最終的な決定権は河川管理者にあると指摘。「河川管理者が議論に乗らなければいけない仕組みをどう創(つく)っていくかが問われている」と強調した。会場からも「行政が動かないのは我々市民が国政をおろそかにしてきたから」との声が上がった。
◆2知事講演
◇対立改善、カギは地方分権
山田啓二知事が「河川と地方分権」、嘉田由紀子・滋賀県知事が「滋賀県の治水政策の今」と題し特別講演。地方分権の推進や新たな治水のあり方を訴えた。
山田知事は河川行政が複雑・高度化し多様な対立軸を生んでいると強調。同局と流域委の対立は「よく分からないが」と揶揄(やゆ)した。流域委の意見書については「読ませていただいたが、委員の中でも京都大防災研究所を中心に異議を唱えている方が多い」と言及した。
その上で「対立を乗り越えるには、最終的に住民が判断する地方分権が必要」と強調。地方自治体には住民監査・訴訟や住民投票、首長の公選などで住民がチェックできるシステムがあり、「私たちは逃げることができない」と述べ、国からの権限委譲を説いた。
同局の整備計画案には京都・大阪・滋賀の3府県共同で知事意見を出す予定で、山田知事は「桂川を整備すれば淀川本流への流量が増えるなど、3府県は決して同じ立場ではないが、できるだけ共同の意見を出す」「最終的な責任は私たちが持つ」などと述べた。
公共事業全般でも「国の縦割り行政、開発優先の制度が地方分権を阻む」「安定成長時代には休止・中止・撤退の可能性を残す、途中で引き返せることが必要」などと述べ、新たなルール作りを訴えた。
嘉田知事は県の治水の歩みを概説した後、住民との協働のあり方として、防災情報を受けて自ら行動してもらう▽危険のある区域は宅地化しないといった土地利用規制などを例示。「水害は予知可能な一方、行政だけでは同時多発の水害被害は防げない。リスクを正しく伝え、住民が備えられる情報開示をする」などと知事としての考えを述べた。
◇国の補助金、池のコイと同じ?
「池のコイに餌をやっているとね、餌が補助金に見えて仕方がないことがある。互いに押しのけ合って食べなくちゃいけない」――。講演で山田知事はこうも話し、笑いを誘った。地方が国の補助金獲得を競い合い、コントロールされている実情を皮肉ったもの。後で登壇した嘉田知事も「本当にそういう仕組みで地方自治がなされてきた。(各府県は)補助金を他に取られないよう必死」と吐露。「6の仕事があるのに4の財源しかない」と、財源委譲の必要性を指摘した。
一方で山田知事は「お互いに食べ過ぎたらメタボになると注意し合えばいい。私も決して橋下(徹・大阪府)知事、嘉田知事と仲がいい訳ではないが、携帯電話やメールで連絡を取り合ってる」とも述べ、地方の連携もアピールした。
◆課題を討論
◇「国会の関与増やすべきだ」「河川法の再改正を」
2日目は宮本さん、民主党の前原誠司、共産党の穀田恵二の両衆院議員、石川良一・京都弁護士会会長らの講演とパネル討論があった。
宮本さんは同局が流域委の議論無視に転じた姿勢を「淀川の逆流」と表現。「淀川の試みを面白いと言い、越水対策など堤防強化に賛同していたのに、淀川はけしからん、越水対策など言ってくれるなと変わった。本気で住民意見を聴こうとするのはけしからん、川のことは河川官僚が一番知っているから根本は変えないと思ったのではないか。ダムの結論ありきで逃げたと言える」と述べた。
また「我々は分岐点にいる。河川環境悪化と行政不信に戻るのか、河川環境を修復し信頼回復に向かうのか。地域と住民の力が問われている」「ダムや川だけでなく、公共事業の意思決定の仕組み、国と地域、行政と住民の問題が淀川に凝縮されている」と呼び掛けた。
石川会長は8月末に同局などに出した意見書を紹介。「流域委の最終意見を聴いた上で、それを反映させて作成する法的義務のある河川整備計画案を一方的に発表した。明らかに違法で許せない」と話した。
前原議員は党の公共事業見直し政策をアピールした後、「淀川流域委という堤防が決壊すれば他のダムでも国交省の暴走を許してしまう。皆さんに連帯する」と表明。また「立法府の責任は非常に大きい。予算の個所づけや事業決定に国会もなかなか関与できない仕組みをどう見直すかが大事」とも話した。
穀田議員も党の取り組みをアピールした上で「改正河川法には抜け穴があった。有識者や住民の意見を聴くのは『必要に応じて』との文言があり、基本方針策定段階では住民参加がないなど、恣意(しい)的な使い方をできる弱点がある」と指摘。「再改正し、住民参加手続きを徹底させる必要がある」と話した。11月8日朝刊