特別天然記念物のトキを野生に復帰させるため、環境省や新潟県などは、人工繁殖させた10羽を新潟県佐渡市で試験放鳥した。トキが日本の空を飛ぶのは、昭和56(1981)年に野生の5羽を保護捕獲して以来27年ぶり。最後の日本産で雌のキンが死んでから5年になる。かつて日本の里山で当たり前のように見られたトキは、乱獲と農薬などによる環境悪化が原因で絶滅した。今回の放鳥は、1つの種の再生にとどまらず、地域の自然生態系の再生という重要な課題を担っている。(田中幸美)
■写真で見る■ トキ10羽、佐渡で放鳥 27年ぶり野生復帰へ
≪GPSで追跡≫
10羽(雌雄各5羽)の放鳥は9月25日。6羽にGPS(衛星利用測位システム)機能付き送信機を装着した。3日に1度まとめて送られてくるデータには、4時間ごとの位置情報が蓄積されている。雌で装着しているのは1羽だけだが、これは交尾時に雄が背中に乗るためだ。電源はソーラーとバッテリーの2タイプ。
環境省佐渡自然保護官事務所の岩浅有記(いわさ・ゆうき)さんによると、当初は放鳥地点から2〜3キロ圏内の移動だったが、時間がたつにつれて距離を伸ばす傾向にあるという。中には10〜15キロも移動する鳥もいて個体差が出てきた。しかし、2羽については現在も確認できていない。岩浅さんは「雪に閉ざされる冬を前に、餌の豊富な平地で群れをいかに形成できるか」が今後の課題と話す。
≪トキは1つの種≫
10羽は、平成11(1999)年に中国から寄贈された1つがい(雄の友友(ヨウヨウ)、雌の洋洋(ヤンヤン))とその後、供与された美美(メイメイ)をもとに佐渡トキ保護センターで繁殖した個体だ。100羽以上に増えた中から、たくましい鳥が選ばれた。
環境省は27年ごろまでに60羽を定着させたい考えだ。しかし、キンの死で日本産は一度絶滅している。
“外来種”の放鳥に違和感を覚える人も少なくないが、兵庫医科大学の山本義弘教育教授(遺伝学)は「遺伝的に見ても1つの種」と強調する。
山本さんは、日本産最後の雌雄のキンとミドリおよび、中国産の洋洋のミトコンドリアDNAを分析。約1万6800の塩基配列のうち、わずか11カ所(0・065%)の違いしかないことを確認した。
全国から集めたトキの剥製(はくせい)で比較しても、日本産と中国産の間には遺伝的交流がうかがえた。山本さんは、渡りをしていた可能性も指摘する。
≪里地里山の回復≫
試験放鳥の成否を左右するのは、自然環境の整備だろう。住民やNPO(民間非営利団体)の協力で、本州寄りの小佐渡東部を中心に、ビオトープと減農薬の栽培田を20カ所以上、計100ヘクタールを整備した。
最後の5羽が営巣していた野浦地区では42戸中半数以上の農家が農薬と化学肥料を半減させている。臼杵(うすき)春三さんは「将来的には8割の農家に拡大するのが目標。トキに来てもらえれば環境もよくなる」と期待する。
山階鳥類研究所の山岸哲所長は「放鳥は単にトキという1つの種を取り戻すことではなく、トキと共存できる地域を再生することだ。日本の過疎農村の抱える問題解決にもつながる」と今回の野生復帰の意義を語った。
Posted by jun at 2008年10月20日 13:15 in 自然環境関連