長野県辰野町松尾峡にある「ほたる童謡公園」で21日から恒例の「ほたる祭り」が始まった。先週末には公園内で1万匹近いホタルが明滅し、光の乱舞で訪れた人たちを魅了した。ただ、水質汚染、豪雨災害など絶滅の危機に何度もさらされながらの復活に対する努力に称賛の声が上がる一方、外部からホタルを持ち込んだことに批判もあり、関係者は困惑する。こうした議論をもとに生態系について考えた。(高砂利章)
薄暮が夜の帳(とばり)にすっぽり包まれ、手元のカメラさえ見えなくなるころ。斜面に張り巡らされた水路から、控えめな明かりがひとつ、またひとつとともされる。やがて公園全体に小さな明かりがびっしり張り付き、怪しく息づいたり、地上を離れ宙に舞ったり。まるで公園そのものが生きているようだ。
辰野町役場では毎日午後8時から1時間、調査員がカウンターを片手にホタルの明かりを数えているが、今年は6月1日に初確認され、先週末には約9000匹に及んだ。一昨年7月に県南部を襲った豪雨被害で水路が分断され、公園内が干上がりかねない危機に陥ったが、天竜川の水をポンプでくみ上げるなど素早い対応が復活につながったという。
松尾峡のホタル育成に50年以上も携わってきた勝野重美さん(78)は「農業に水が必要な時期にも、公園に水を回してくれた農家の方々のおかげ」と、感謝の言葉を述べた。
県内で生物教師を務めていた勝野さんが辰野高校に赴任したのが昭和30年。「ホタルの明かりで、水路に沿って明るい帯ができて、それが明滅する。声を失うほど美しかった」と、当時を振り返る。
ホタルに魅せられ生態研究も始めた勝野さんだが、すぐに重大な危機に直面する。日本が高度成長期に入った昭和30年代後半から、水路の源になっていた天竜川の水質悪化で、松尾峡は壊滅状態に。しかし付近の沢から水を引いた水路ではホタルが生き残っていたことに着目し、水路に沢水を引くように改修工事を実施。さらに公園を整備し、エサとなるカワニナが生息しやすい環境を整えるなどした結果、松尾峡はかつての“輝き”を取り戻し、平成15年には累積目撃数が約14万匹に達した。今では毎年20万人近い観光客がホタル鑑賞に訪れるが、こうした功績が認められ、勝野さんは昨春、地域づくり総務大臣表彰を受けている。
しかしここ最近、絶滅の危機に直面した際に他県から繁殖用にホタルを導入したことや、ホタル生息地として公園を整備したことをとらえ、勝野さんや町を批判する声もある。「ありのままの自然ではない」「古来からの生態系を乱した」というのがその主張だ。
「その時その時にホタルを守るためにできることを一生懸命やってきただけ。地域古来のホタルを大事に守る生息地があってもいいし、たくさんの人が乱舞を楽しむ場所があってもいいと思うのだが」と勝野さんらは当惑する。
川や湖の魚類を例にあげると分かりやすいが、釣り人によるブラックバス放流のほか、行政や地元漁協による外来魚のニジマスやブラウントラウト、フナ、ワカサギ、養魚場生まれのアユや渓流魚の放流。その結果、現在の内水面で古来の生態系をそのまま受け継ぐ水域は限りなくゼロに近い。
生態系への認識が薄かった時代の出来事を「思慮のない移入」「密放流」などと考え、犯人探しや批判に熱心な人たちもいる。しかし山奥の清流沿いや源流域には、今も古来からの遺伝子を保ち続けているホタルやイワナがいる。こうした水域や地域を見つけ出し、保護する。それが今、私たちが最優先で行うべきことではないだろうか。
Posted by jun at 2008年06月24日 12:54 in 外来生物問題, 魚&水棲生物, 自然環境関連