私たちの身の回りで、魚や花や虫が、環境の異変を告げている。地球温暖化が原因なのか、越境汚染の影響なのか。不気味な変化のリポートを随時掲載する。
朝もやに包まれた琵琶湖の湖面を、イサザ漁の小舟が5隻、滑るように進む。イサザの群れは深さ60メートル前後の湖底に潜む。漁師が網を投げ入れ、湖底をさらうように引き揚げると、体長5〜6センチの小魚が塊になって姿を現した。琵琶湖だけに住む固有種で、つくだ煮やみそ汁の具として地元の食卓を飾る。
昨年12月、滋賀県琵琶湖環境科学研究センターの無人潜水艇の水中カメラが、深さ約90メートルの湖底で多数の魚の死骸(しがい)をとらえた。石川俊之研究員らが映像を分析し、1800匹以上のイサザを確認。湖底観測は7年目だが、大量死が見つかったのは初めてだった。
当時、湖底の溶存酸素濃度(DO)の最低値は1リットルあたり0・6ミリ・グラム。通常、魚が生きられる2ミリ・グラムを大幅に下回った。回収した魚の多くが口を開けて死んでおり、センターは「酸欠死の疑いが強い」と結論づけた。
湖面近くでは、植物プランクトンによる光合成が酸素を作り出すが、太陽光が届きにくい下層に酸素は乏しい。冬になると表層の水が冷やされて重くなり、下層の水と混ざり合って酸素が行き渡る。これが「深呼吸」と呼ばれ、毎年繰り返される湖の水循環だ。
しかし、遠藤修一・滋賀大教授(地球環境学)らの観測によると、琵琶湖の平均水温は過去20年間で2度以上も上昇。「冬場の水温が十分下がらず、正常な水循環が妨げられている」と石川研究員はみる。
富栄養化が進んで水質が悪化すると、DOは下がる。県水産試験場によると、DOは1950年に9ミリ・グラムだったが、70年代以降、4〜6ミリ・グラムに。下水道整備などにより、DOも下げ止まったが、2002年には一転、2ミリ・グラムと最低記録を更新している。
研究者らは、住民や行政が富栄養化対策に取り組む琵琶湖に、温暖化が新たな負荷をかけているのではないか、と考える。
70〜80年代、年200〜500トンだったイサザの漁獲量は90年代以降に激減。95年は112キロ・グラムしか捕れず、「幻の魚」と呼ばれるまでになった。昨年、環境省は、準絶滅危惧(きぐ)種だったイサザを絶滅危惧種に格上げした。
樋口広芳・東京大教授(保全生物学)は警告する。「環境の悪化がある臨界点を超えると、種の死滅など生態系のありようが劇的に変わる『レジームシフト』(相の移行)が起こる。今、それが琵琶湖で起きつつある」(地方部 高倉正樹)