めだかの学校は川のなか−。童謡「めだかの学校」の一節だ。しかし、今では近くの川をのぞいてもメダカにはめったにお目にかかれない。水辺の生き物の宝庫だった山梨県富士吉田市の明見湖(あすみこ)に、メダカの棲める環境を取り戻そうと地域住民が「めだかの学校」を結成し、近くの池でメダカの保護を始めたのは平成4年。長年の活動が実を結び、昨年末、市は明見湖を公園として整備した。めだかの学校は16年の歴史に区切りをつけ、今春から明見湖公園で新たな活動を始める。(油原聡子)
「人が来ると逃げてしまうけれど、そっとしていると寄ってくるんですよ」。そう言ってめだかの学校の校長、勝俣源一さん(58)は近寄ってきたメダカを指さした。明見湖から歩いて2分、 100坪ほどの池がめだかの学校だ。勝俣さんらが草を刈り、水を引いて作った池で、隣には体験学習用の田んぼもある。
体長約4センチとメダカは日本で最も小さい淡水魚だ。流れの緩やかな浅い水辺を好み、かつては田んぼや小川で当たり前にみることができた。しかし、戦後、農業人口が減って田んぼが少なくなり、農薬の使用やコンクリート用水路の整備が進んだ結果、すみかを奪われ姿を消していった。
富士八湖のひとつ、明見湖も例外ではない。広さ約1.3ヘクタールで、かつては富士山信仰の禊(みそぎ)所として利用されていた明見湖は、わき水が豊富で、清流の魚と沼地の魚が生息する貴重な生態系を持っていた。しかし、昭和50年代から始まった周辺の宅地開発の影響で、わき水が減少し水質の汚染が進み、メダカを始め多くの生き物がいなくなった。めだかの学校のメンバーで、自然写真家の中川雄三さん(51)は「当たり前の自然が貴重なものになっていくのを感じました」と振り返る。
◇
勝俣さんら地域住民約15人は平成4年6月、明見湖にメダカの棲める自然環境を取り戻そうと「めだかの学校」を結成。甲府市の研究会が保護していた明見湖のメダカ約400匹を譲り受け、近くの休耕田に池を作ってメダカの保護を始めた。
自然環境についての講演や田植えなどの体験学習も企画し、これまでに約3000人が参加。メダカも今では群れをなして泳ぐまでに増えた。活動はマスコミにも大きく取り上げられ、道徳の教科書の山梨県版に掲載されたほか、童謡「めだかの学校」の舞台となった小田原市を始め、多くの団体が視察に訪れた。
メダカ保護の動きは、平成11年、当時の環境庁が絶滅の危険が増大しているとされる絶滅危惧II類に指定したのを機に、全国に広がった。12年に結成された「日本めだかトラスト協会」の会長で、メダカ研究の第一人者、岩松鷹司・愛知教育大名誉教授は「メダカは食物連鎖に必要な生物。メダカを通してたくさんの生物を理解することができる。メダカは水辺の自然環境の指標になる」と指摘する。
昨年12月に完成した明見湖公園は、広さ約3.4ヘクタール。水田などの体験学習エリアも備えた。めだかの学校の活動が地域住民を動かし、明見湖の保全を行政に訴えてきた結果だ。そして、勝俣さんは「近い場所で同じような体験学習をやっても仕方がない」と、23日に明見湖公園体験工房での講演を機に、活動に区切りをつけることを決めた。
しかし、めだかの学校を閉校するわけではない。公園は完成したが、水のなかにはまだブラックバスなどの外来種がおり、メダカを放せる状態ではない。池でのメダカの保護は続けていく。勝俣さんは「公園を作るのではなく、自然を取り戻すのが目的。これからは公園を舞台に市と協力していきたい」と語った。
◇
■地域固有のメダカ
全国的にメダカ保護の活動が広まるなかで、問題になっているのが「他地域からのメダカの放流」だ。体が小さく、長距離を泳ぐことのできないメダカは地域ごとに固有の進化を遂げた。外観上の違いはほとんどないものの、標高約800メートルの高地にすむ明見湖のメダカは耐寒性が高いなど、地域に適した固有の遺伝子を持っているという。
メダカを増やそうと、安易に他の地域から持ってきたメダカや飼育用のメダカを放流するのは、地域固有の遺伝子を持つメダカの絶滅を招きかねないのだ。平成18年には発光するクラゲの遺伝子を導入した未承認の「光るメダカ」が輸入されたが、放流された場合の生態系への懸念もあって、農水省と環境省が回収を指導する騒ぎになったこともある。
Posted by jun at 2008年03月18日 17:40 in ブラックバス問題, 魚&水棲生物, 内水面行政関連