◇試行錯誤で卵を守る−−魚の大群回復へ、湖岸の整備も
琵琶湖から水が流出する唯一の河川、瀬田川の流量を調節する瀬田川洗堰(あらいぜき)は南郷洗堰と交代する形で1961年に完成した。琵琶湖辺や下流地域を水害から守り、渇水時には琵琶湖の水位低下を防いでいる。洗堰の開閉操作を受け持つのが国土交通省琵琶湖河川事務所。第一義的な役割は水害を防ぐための水位調節だ。
92年以降、操作上の大原則となっているのは、毎年6月16日に基準水位より20センチ低い水位を作ること。梅雨や台風などでの水位の急激な上昇に備えるための措置だが、この操作は琵琶湖の生態系にも少なからず影響を与えている。
ホンモロコ、ニゴロブナなど固有種を含む在来のコイ科魚類は▽水温が高く酸素が豊富▽恒常的な水域でないため天敵が少ない――などの理由から、水位が上昇した水域を産卵場所として好む。しかし、コイ科魚類の産卵期にあたる4〜6月は水位上昇を防ごうとする時期。せっかく生まれた卵が水位操作によって乾燥し、ふ化できなくなる現象が多発してしまう。
03年から操作法の試行錯誤や継続監視を行った末、同事務所は産卵、ふ化の時間を確保するため、自然に水位が上昇してから7日間、水位を維持する手法にたどり着いた。06年は放流量を増やすほどの急激な水位上昇が少なかったこともあり、高島市新旭町針江の湖岸で調査した結果、干上がった卵は全体のわずか1・6%だった。
自然条件に左右されるとはいえ、卵を殺さない水位操作法がほぼ確立されたといえる。同事務所河川環境課の佐久間維美課長は「現在の課題は水位低下に伴って孤立する水域で仔魚(しぎょ)が死んでしまうのを防ぐこと」と次のステップについて語る。この現象は夏場の水の使用量の増加や晴天続きによっても起きるため、洗堰の水位操作だけで解決できるわけではない。
05年から、同事務所や地元NPOなどが中心となり、「うおじま」と呼ばれる産卵に向かう魚の大群を回復させようという「高島市うおじまプロジェクト」が展開され、さまざまな湖岸の環境整備が進められている。その一環として、産卵・ふ化の期間だけ、琵琶湖への流入河川に堰を設けて孤立しやすい水域に水を流し、干上がることを防ぐ仕組みが同市新旭町の針江や深溝の琵琶湖岸に作られた。休耕田と行き来する魚道の整備、ヨシ帯の保護などの取り組みも併せて進め、休耕田に絶滅危惧(きぐ)種の固有種スジシマドジョウが泳ぎ始めるなど、早くも成果が見られる。
このような転換には97年の河川法改正で、河川の管理目的として環境の整備や保全が加えられたことが大きい。佐久間課長は「環境問題への対処は分からないことだらけで、まず試し、その変化をとらえて進めていく必要がある。基本的に過去のデータに基づいて進める土木に、環境という視点が加えられたことで、今後大きく変わってくるだろう」と話す。
人間生活を便利にするため、土木技術は歴史とともに発達してきた。そのあまりに急速な発展が、近年、自然に打撃を与えた側面もあったが、時代の要請が変化することに伴い、土木事業のあり方も確実に変化してきている。【高橋隆輔】=おわり 1月10日朝刊