伊豆大島(東京都大島町)で大繁殖しているシカ科の特定外来生物「キョン」の新たな対策として、都が報奨金制度やアプリによる目撃情報の収集を始めた。人が生活するエリアでの出没が目立っており、都は島民の協力も得て根絶を目指す考えだ。(岡本立)
2日間で10頭遭遇
「キョンは市街地にもよく出てきて、交通事故が起きている。自分の車にも2回、ぶつかった」
伊豆大島の建設会社で役員を務める男性(58)は、表情を曇らせた。自宅の庭には無数の足跡があり、植木の葉が食べられた形跡もあった。
記者が取材した昨年12月11、12日の2日間でも、レンタカーを運転していると、市街地近くの林道などで計10頭のキョンと遭遇した。
畑や庭への侵入を防ぐため、島内の至る所に網が張り巡らされている。切り花を栽培する島民(71)は「キョンのせいで余計な手間がかかる。このままでは島で農業をやりたいという人がいなくなってしまう」と危機感を抱く。
夜行性のキョンは深夜に人の叫び声のような「ギャー」という鳴き声を響かせるため、島民からは「なかなか寝付けない」と困惑する声も聞かれた。
台風で逃げ出す
人口約6600人の伊豆大島でキョンが増えたきっかけは、1970年の台風だった。都立大島公園の柵が強風で壊れ、飼育中の十数頭が逃げ出したのだ。
キョンのメスは、生後1年ほどで子どもを産むことができ、繁殖力が強い。天敵となる肉食獣もおらず、推定生息数は2017年に2万頭を超えた。
島特産のアシタバやサツマイモが食べられ、被害額は年200万~300万円。コケイランやアカハナワラビなど6種の植物はキョンによる食害で絶滅の危機に直面している。
「都の責任で」
キョンが05年に特定外来生物に指定されたことを受け、都は07年から業者に委託して駆除を始めた。年間6億~9億円の予算を確保して捕獲頭数を増やし、21年には初めて推定生息数が減少。24年12月末時点で1万7439頭となった。この機を逃すまいと、都は昨年9月、島民を巻き込んだ報奨金制度を始めた。
自宅の敷地などに箱型のわな(高さ60センチ、幅60センチ、奥行き120センチ)を設置させてもらい、キョンを捕獲すると、1頭8000円を支払う。これまで手薄だった市街地での捕獲を増やす狙いがある。
村松さんは、すぐにわなの設置を申請した。「島民はみんな迷惑している。少しでも減らすことに貢献できるなら」と話す。
LINE(ライン)でキョンの目撃情報を共有するアプリの運用も昨年8月に始まった。島民らが目撃場所や写真を投稿すると、地図で共有され、キョンの生息地の把握やわなの設置場所の検討に役立てる。
都環境局の担当者は「島のキョンはもともと都の施設から逃げ出した。都の責任で駆除しなければならない」と強調する。
◆キョン=主に中国や台湾に生息する草食獣。体長約1メートル、体高約50センチで、シカより一回り小さい。国内では、千葉県や茨城県でも駆除が課題になっている。
外来種 離島で繁殖…人手足りず対応困難
外来種の繁殖は、各地の離島で問題になっている。
奄美大島(鹿児島県)では、1979年頃にハブ対策として沖縄県から持ち込まれたフイリマングースが島内で繁殖。国の特別天然記念物のアマミノクロウサギや農畜産物への被害が拡大し、93年から駆除が始まった。島内全域にわなや自動撮影カメラが設置され、約3万2000頭を捕獲。環境省は2024年9月、根絶を宣言した。
長岡技術科学大の山本麻希准教授(生態学)は「離島は手つかずの自然が多い一方、猟友会などの専門人材が少ないため、外来種が定着すると駆除は難しい」と指摘する。
日本海に浮かぶ粟島(新潟県粟島浦村、人口約310人)では、2002年にペットとして持ち込まれたシカ3頭が野生化。村では、11年頃から捕獲しているが、生息数は150頭前後で減っていない。村の担当者は「手を打ちたいが、人手が足りない」と嘆く。
