1匹見かけたら、3年後には2万匹に…爆発的繁殖力「ニュウハクシミ」の生態 文化財をむしばむ小さな脅威

■新たなシミ 襲来
 たった1匹の侵入を許せば、3年後には約2万匹の大群に・・・。私たちの貴重な文化財を静かに脅かす外来種のシミが3年前に国内で発見され、急速に広がっています。 人呼んで「ニュウハクシミ」。その名の通り光沢のある乳白色の体で、体長は約1cm、おしりには3本の毛があります。

 2022年の初確認からわずか3年で、分布域を5都道県から19都道府県(2025年9月末時点)へと急拡大させました。

【2022年時点】5都道県(北海道、宮城県、東京都、福岡県、長崎県)
【2025年9月末時点】19都道府県(北海道、岩手県、宮城県、東京都、静岡県、愛知県、岐阜県、石川県、京都府、大阪府、奈良県、兵庫県、岡山県、島根県、香川県、高知県、福岡県、長崎県、熊本県)

その背景にあるのは、爆発的ともいえる繁殖力。 貴重な史料をむしばむ脅威に、関係者たちはどのように立ち向かっているのでしょうか?

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 文化財保存の専門機関である東京文化財研究所(東文研)の佐藤嘉則さんに、シミの実態と対策の最前線について聞きました。

■そもそも「シミ」って?生態をおさらい

 東京文化財研究所 佐藤嘉則さん「紙を食べる性質から、シミは古くから本の害虫として知られてきました。ヤマトシミやセイヨウシミといった在来種は、一般の家屋でも見かけることがあります。本の表面をかじり取るように食害し、文字情報を失わせてしまうのです」

 このように、文化財に危害を加える害虫は「文化財害虫」と呼ばれ、シミの仲間もそこに含まれます。

■爆発的な繁殖力の理由

 シミの中でもニュウハクシミを特に危険視する理由は、その繁殖力の高さにあります。 オスとメスが揃わなければ繁殖できない在来種のシミとは、増え方が全く異なるのです。

佐藤さん「ニュウハクシミは『単為生殖』、つまりメスだけで子孫を残すことができます。生まれてくる子どもはすべてメスで、その子ども達も、また卵を産んでメスを増やしていきます」

 ニュウハクシミは孵化して1年で成虫となり、年に2回、1度に約10個の卵を産みます。 たった1匹のニュウハクシミが施設に侵入した場合、1年後には約130匹、3年後には約2万匹以上にまで増える可能性があるのです。 これまで文化財への直接的な被害は確認されていませんが、東文研はこの繁殖力に強く警鐘を鳴らします。

佐藤さん「いったん施設に定着してしまうと、その後の防除は極めて困難になります。そのため、早期発見・早期対処が何よりも重要です」

■どう対抗する?

 初確認から3年を経て、全国で確認が相次ぐニュウハクシミ。資料や、それを包む段ボールなどの梱包資材に付着して、人と物の移動に伴って広がっているとみられます。 これ以上の拡大を防ぐために、どうすればよいのでしょうか?

 東文研は、ニュウハクシミに特化した「防除用キット」を開発し、全国の博物館や美術館などへの配布を進めています。 光を嫌うシミが入りやすい構造の箱に毒餌である「ベイト剤」を設置したもので、これを食べると脱皮が出来なくなり、やがて死に至るといいます。

 実はこれ、元々、アリ対策として開発されたもの。 シミを駆除するための研究で様々な餌を試した結果、これが効くと分かったということです。

佐藤さん「これまでの研究で、ニュウハクシミは10℃以下、または湿度43%以下で死滅するという情報が得られています。こうした弱点を、文化財の保存環境に適用して防除できないか、という試みもスタートしているところです」

■対策は「調査」から

 美術館などの片隅で「調査中」と書かれた箱を見たことはありませんか? 膨大な作品・資料・文献などを管理する美術館などの施設では、館内の害虫の生息状況を調べるトラップを設置することがあります。 日常的に、虫の種類や数を把握して対策につなげるためです。 熊本市現代美術館は月に1度の調査で、トラップの粘着テープに「白いシミ」を確認しました。 東文研に調査を依頼したところ、これがニュウハクシミだと判明したといいます。

 12月から防除キットを設置し、現在まで、冬季ということもありニュウハクシミによる被害は確認されていないということです。

熊本市現代美術館 学芸員 冨澤治子さん「ニュウハクシミに限らず、シミは根絶が難しい。美術館で働く者として、それは基本的知識です。今後もニュウハクシミの繁殖力を踏まえて、日常的な対策を行うミュージアムIPM(※)の体制でまとめて管理する虫の1つと考えます」

(※)IPM:「総合的病害虫管理」を意味し、薬剤に頼らず清掃・調査・空調管理といった日常的な環境整備で、害虫被害を予防・対策をすること。

 今後は防除用キットを1年ほど設置して様子を見ることにしています。

■いまも謎多き生態

 1910年に南アジアのスリランカで初めて発見されたニュウハクシミは、2017年にヨーロッパへ、そして、その5年後に日本へと上陸しました。

 「東京文化財研究所によりますと、ヨーロッパのニュウハクシミはまだ単為生殖は確認されておらず、さらにはニュウハクシミとは別の種類、「オナガシミ」の大繁殖が問題になっていると言います。

「国によって増え方が異なるかもしれない」謎多き生態です。

 シミジミと感心している猶予はありません。

 私たちの貴重な財産を守るため、関係者たちが目を光らせています。

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