2006年12月06日

現場から記者リポート:ダム問題 「新駅より難しい」との指摘も/滋賀

 ◇淀川水系整備方針、話し合いがストップ−−検討委、開かれないまま1年
 ◇「凍結」掲げる嘉田知事−−県議会は「推進」派多数\n 嘉田由紀子知事の初当選から5カ月。新幹線新駅(栗東市)問題に注目が集まる中、もう一つの「凍結」・ダム問題は陰に隠れた感があるが、地元や関係者の合意を形成するにはこちらも難題が山積。「新駅より難しい」(県関係者)と指摘する声も聞こえてくる。一方、淀川水系の整備方針を話し合う委員会は開かれないまま1年が経過。今後の日程も不透明なままだ。前途多難をうかがわせるダム問題を巡る現状をまとめた。【服部正法】

 ■知事選直後の「延期」
 「河川整備基本方針検討小委員会を延期します」
 嘉田知事が初当選した知事選翌日の7月3日、全国の河川整備の基本方針策定に意見を述べる同小委の委員に、このような趣旨の通知が国土交通省から突然届いた。同小委は、国交省の社会資本整備審議会河川分科会に設置され、有識者や知事らで構成される。延期が通知されたのは8月初旬に開く予定の会合で、淀川水系の河川整備基本方針の本文の内容について本格的に話し合うことになっていた。
 国交省河川局は毎日新聞の取材に対し「日程調整や準備状況から開催が難しくなった。知事選(の影響)による延期とは考えていない」と話したが、委員や県関係者は「意見がまったく異なる知事が誕生したことで国交省も困惑し、小委を開けなくなった」と推測した。この延期以後、淀川水系が議題の同小委は1回も開かれていない。
 ■ハードル高くなった?
 ダム問題を含む河川政策の一大転機は97年の河川法の改正。治水と利水という従来の河川整備の理念に、環境への配慮が加わった。法改正を受け、一級河川については長期的視野に立った「河川整備基本方針」を作成し、今後20、30年間の整備の内容を示す「河川整備計画」を策定した上で、実際の工事を進めることになった。延期された小委は「基本方針」策定に意見を述べる機関。「整備計画」策定にあたっては、有識者や地域住民、自治体の長の意見が反映できる仕組みも整った。これがダム問題を考える前提だ。
 琵琶湖・淀川水系については法改正の趣旨を生かそうと、国交省近畿地方整備局が「整備計画」に意見を述べる専門家会議「淀川水系流域委員会」(委員長、今本博健・京都大名誉教授)を「整備計画」原案ができる以前に立ち上げて、議論を開始。水系の中で5ダムが建設・計画中だが、同流域委はダム建設について「基本的に避けなければならない」など否定的な意見をまとめてきた。
 そんな流れの中で近畿地方整備局は昨年7月、大戸川ダム(大津市)を「凍結」、丹生ダム(余呉町)を「規模縮小」などとする方針を発表したため、地元住民や当時の国松善次知事は従来計画通りの建設を主張して猛反発した。そこに登場したのが嘉田知事だ。環境社会学者で淀川水系流域委の委員でもあった嘉田知事は知事選の重点公約の一つとして、大戸川、丹生両ダムや県営ダムなど計6ダムの「凍結」を打ち出した。
 同小委はどうして開けないのか。関係者の一人は「(洪水時に下流を助けるための)瀬田川洗堰(ぜき)の全閉操作の解消を滋賀県が訴えている一方、他自治体からは『こっちの川の狭さく部もどうにかして』という意見があり治水面で(折り合いが)難しいところに、さらに『ダム凍結』という知事が就任したため、(策定への)ハードルが高くなった」と内情を分析する。
 ■焦点は08年度概算要求\n 「来年になって(次年度の)工事予算要求が出てこないと、現実的には知事が言うように凍結になってしまう」。10月12日の県議会琵琶湖淀川水系問題対策特別委員会。丹生ダムの地元、伊香郡選出で同ダム計画推進派の論客、橋本正県議が訴えた。橋本県議は丹生ダム関連の来年度予算の概算要求が事務経費のみにとどまっていることを指摘し、来夏の08年度予算の概算要求に間に合わないと事実上凍結になると指摘したものだ。
 だが、淀川流域委への風当たりが強くなるなど、国交省内部で「ダム凍結」派に対する巻き返しが進んでいるとの観測があり、来年度の早い段階で小委を開催して「基本方針」を策定、続いて「整備計画」策定に入り、概算要求に間に合わせると推測する関係者もいる。いずれにせよ、結論が出るのはそれほど先ではないようだ。
 ■「下流負担金」は?
 嘉田知事は来年早々から課題に相次いで直面することになる。まずは大戸川ダム周辺の道路などの整備を巡る問題。周辺整備事業には01〜09年で下流の大阪府、京都府が計約30億円の負担金を払うことになっている。しかし昨年7月の近畿地方整備局の「凍結」方針を受け、両府は昨年度、負担金の支払いを渋り、支払いに時間がかかった経緯がある。今年度分の両府の支払いはまだなく、年度末に向けての対応が注目される。
 また淀川水系の「整備計画」が出来る際、国は知事の意見を聴くことになるが、嘉田知事が「凍結」を主張しようとしても、県条例では知事意見には県議会の議決がいると定めている。「ダム推進」派が多い現在の議会では「凍結」を通すことは簡単ではない。一方で嘉田知事の「ダム凍結」は新幹線新駅の「限りなく中止に近い凍結」と比べ、「見直し」にニュアンスが近いと指摘する声もある。 12月2日朝刊 (毎日新聞)

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Posted by jun at 2006年12月06日 12:24 in 内水面行政関連

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