2017年08月31日

海外でヒアリ並みに恐れられている「ジャパニーズ・ビートル」の猛威

 ヒアリが日本各地で続々と見つかっています。一時のような報道の過熱は収まったようですが、6月に兵庫県尼崎市で国内初の個体が確認されてから、愛知、大阪、東京、福岡、新潟、岡山などの主に港湾でも見つかったほか、8月に入ると埼玉県や岐阜県などの内陸部でも発見されました。本格的な侵入と定着が始まっているとみてよいでしょう。

 ヒアリはもともと南米原産の昆虫ですが、現在では北米や中国大陸にも生息しています。日本に侵入しているヒアリは、中国から運ばれてくるコンテナに乗って、海を渡ってきたと考えられています。そのため、ネット上の一部では「中国からの侵略者だ」とか、果ては「中国政府の陰謀なのでは」とまで噂されているようです。

 しかし、ブラックバスなどの例を持ち出すまでもなく、生物がもといた地域から他の地域へと海を渡って進出し、現地で猛威を振るうことはそう珍しくありません。しかも、外来生物が日本に侵入してくるケースがあるのと同様に、海外で「日本原産」の生物が大繁殖し、場合によっては多大な被害をもたらしているケースもあるのです。

 その実例が、まさにこの夏、欧米の農家を脅かしているマメコガネです。

日本からの小さな「侵略者」

 6月には、スイス南部のティチーノ州当局が、スイス国内で初めてマメコガネの生息を確認したと発表しました。また7月下旬になると、アメリカ中西部のミネソタ州でマメコガネが大量発生し、周辺の州でも被害を出していると報じられています(地元メディアのニュース→ https://www.mprnews.org/story/2017/07/28/japanese-beetles-are-particularly-bad-this-year)。

 マメコガネは、日本ではありふれた昆虫です。「コガネムシ」と聞くと、この緑色と赤銅色に輝く小さな虫の姿を思い浮かべる方も多いのではないでしょうか。

 国内のほぼ全土に分布しているマメコガネは、もとは日本の在来種ですが、20世紀初頭にアメリカのニュージャージー州で発見されるやいなや、急速に北米で勢力を拡大してゆきました。

 その後、大豆やブドウ、モモといった様々な作物の葉や実を食い荒らして甚大な被害を出すようになり、アメリカでは「ジャパニーズ・ビートル」と呼ばれて今なお恐れられています。成虫による食害だけでなく、幼虫も植物の根を食べるため、タチが悪いのです。

 ヨーロッパにおいては、1970年代に大西洋に浮かぶポルトガル領アゾレス諸島で確認された後、2014年にはイタリアなど南欧でも生息が確認されるようになり、アメリカ同様に害虫として忌避されるようになりました。

 前述した6月のスイスでの生息確認を受けて、周辺地域では拡大防止の呼びかけが行われるなどの騒ぎが起きています。経済的な面で言えば、マメコガネが世界中でもたらした被害の大きさは、ヒアリの被害と同等以上の規模になるでしょう。

本来は穏やかな生き物が、なぜ?

 植物でも、同じようなケースがあります。最も代表的なのが、初夏に白い花を咲かせるツル植物のスイカズラです。スイカズラは中国の一部にも分布していますが、もとは日本在来種で、20世紀中頃に北米に侵入したとされています。

 スイカズラは漢字で書くと「吸葛」、つまり花の蜜を吸うことができる葛(ツル草)という意味です。英語にも、昔から「ハニー・サックル」という言葉があり、「蜜を吸うことのできる植物」を指す一般名詞として用いられていたようです。しかし現在では「ハニー・サックル」と言えばスイカズラのことだけを指すようになっています。それほどスイカズラは欧米でも定着しているのです。

 当初は園芸用として欧米に持ち込まれたスイカズラですが、特にアメリカでは野生化したものが異常繁殖することがあり、問題になっています。さらに近年では、スイカズラに加えて、これも日本から持ち込まれたツル植物のクズ(ちなみにこちらも漢字で書くと「葛」ですが、スイカズラ科ではなくマメ科の植物です)も急速に繁殖を遂げ、その駆除に大わらわという地域があるそうです。

 興味深いのは、マメコガネにしても、またスイカズラやクズにしても、故郷の日本ではさして猛威を振るっているわけではないことです。彼らは他の多くの在来野生種と同様に、日本ではつつましく野辺に暮らし、咲いているだけです。

 なぜ日本では穏やかに生きている生物が、海外に進出した途端に爆発的に繁殖したり、猛威を振るい始めるのでしょうか? 
 いささか教科書的になりますが、以下のような解説が定説とされています。

 ある生物が、それまでその生物が分布していなかった地域に新たに侵入したとします。その際、侵入先にその生物と同じような生態系上の地位を占める在来生物が棲んでいない(これを「ニッチ(生態的地位)のギャップ(隙間)がある」と言います)なら、侵入した生物はそのニッチを独占できるので、爆発的に増加します。

 このようなケースでは、競合種(例えば、蝶なら同じ植物を食草とする種)や、天敵もいないことが少なくありませんから、繁殖を邪魔する要因もありません。

 ただし、新天地での繁殖が飽和状態に達すると、何らかのネガティブな外圧が加わった時に、生態系の中でのバランスを保つことが出来ず、往々にして一気に勢力が衰えることもあります。こうした試練を乗り越えた生物が、真の意味でその場所の「定着種」になるというわけです。

 もっとも僕自身は、上記の説に完全には同意していません。ではどう考えているのかというと、非常に複雑な話になってしまうので、また稿を改めてご説明できればと思います。ほんの少しだけお話しすれば、ほとんど同じような生活史や生態系中の位置づけをもつ在来種が衰退に向かっているにも関わらず、外来種の方は繁栄を遂げている、という例もあるのです。こうしたケースは、ニッチの仮説では説明できません。

「モンシロチョウ」も、もとは外来種

 もちろん日本にも、ヒアリだけでなく、これまでにもたくさんの外来種がやってきています。前述したブラックバスやブルーギルはあまりに有名ですが、未だに脅威とされているものの代表格は、南米原産のジャンボタニシ(スクミリンゴガイ)ではないでしょうか。日本全国の水田でイネの葉を食い荒らし、ピンク色の卵を産み付けて農家を悩ませるあの巻貝です。

 ジャンボタニシは南米原産ですが、1980年代に食用として台湾経由で輸入されました。今でも台湾や中国南部、東南アジアでは普通に食卓へ供され、「ごちそう」とされている地域もあるほどです。

 ジャンボタニシの卵には毒が含まれていて、それが繁殖を助けている面もあると思われますが、面白いことに、この毒が唯一効かない天敵が、同じ南米原産のヒアリなのです。もしかすると、ヒアリが日本全国に定着すれば、ジャンボタニシの繁殖も下火になるかもしれません。

 その他には昆虫でも、近年ではアカボシゴマダラやムシャクロツバメシジミ(ともに中国大陸原産)などの蝶が増え、駆除に躍起になっている地域があります。ムシャクロツバメシジミは小さく可愛らしい蝶ですが、日本にはきわめて近縁のクロツバメシジミという在来種の蝶がいて、両者はおそらく容易に交雑ができるため、放っておけば将来、純粋なクロツバメシジミは消滅してしまいかねません。

 一方で、このような外来種の中には、多くの日本人が日本在来種だと思い込んでいる生物もいます。例えば、今やすっかり日本の春の風物詩となっているモンシロチョウは奈良時代に、セイヨウタンポポは大正時代に日本へ侵入した外来種です。セイヨウタンポポは当初、葉や根を食用にするために輸入されたといいます。

 また現在、日本への定着の過渡期に入っていると思われる外来種もあります。北米原産のセイタカアワダチソウは、ご存じの通り日本では雑草として爆発的に増え、一時は花粉症の原因のひとつとして悪者扱いされましたが、ここしばらくは繁殖が下火になってきているようです。種としてのバランスが安定し、日本の生態系に溶け込みつつあるのかもしれません。

 こうして外来種の歴史や経緯を俯瞰してみると、日本にはこれまでにも実にさまざまな生物が侵入していますし、また反対に、日本原産の生物が海外へ進出もしています。新たに侵入しつつある生物に対しては大々的に騒ぎ、すでに溶け込んでしまったものに関しては無関心というのも、少し考えてみるとおかしな話に思えてきます。

 ひとつだけ言えるのは、ひとたび繁栄あるいは衰退を始めた生物の行く末を、人間の力でコントロールすることはできないということです。

 繁栄も衰退も、常にその要因は単純ではありませんし、ピンポイントでの制御や駆除は事実上、不可能です。生態系や環境のバランスをトータルに捉えねば対処はできないでしょう。そしてそれは、思いのほか難しいことなのです。

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青山潤三(あおやま・じゅんぞう)/1948年生まれ。写真家・生物研究家。中国四川省・雲南省の奥地や琉球諸島をフィールドに、植物や昆虫などの撮影・調査を長年にわたり行っている。著書に『世界遺産の森 屋久島』(平凡社新書)、『カラー版屋久島 樹と水と岩の島を歩く』(岩波ジュニア新書)『決定版 山の花1200』(平凡社)など。
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Posted by jun at 2017年08月31日 13:05 in 外来生物問題

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