2016年01月21日

外来爬虫類、昆虫などに寄生して「ダニ」が密入国!? 危険な種類も

地球環境・生態系にとって、なくてはならない生物「ダニ」に異変? 侵入外来生物を研究している国立環境研究所・侵入生物研究チームの五箇公一さんが、「世界を駆け巡るダニ」について解説します。

 生物多様性の保全が唱われて久しいですが、生物多様性を語る上で対象となる生物は、目で見て分かる、美しい、かわいらしい、あるいは格好がいい動物や植物が主流を占めます。しかし、目に見えない、(一般には)美しくない、微小な生物達も立派な生物多様性の構成員であり、重要な生態系機能を担っています。

 ダニという生物もまた、寄生生物=悪いやつと思われがちですが、ダニは、4億年もの昔から、この地球上に生息し、繁栄を続けて来た、生物界の先達者です。身体一つに脚が8本という基本形は何も変わらず、身体の大きさもせいぜい1cmが最大級で、ほとんどがマイクロ・ミクロメーターの範囲という微小なもの。この小さな身体で何千何万という種に分化し、土の中で有機物を食べるもの、植物に寄生するもの、動物に寄生するもの、水の中を泳ぐもの、はたまた人の顔に寄生するもの……と地球上のいたるところに生息しています。

 これだけの長い進化の歴史をもち、これだけ地球上に広く分布しているということは、ダニという生物がいかにこの地球環境および生態系にとってなくてはならない生物であるか、ということを示してもいます。小さくてほとんど見えない彼らも立派な生物多様性の一員なのです。

 しかし、いま、このダニの長い歴史にも、外来種問題という異変が生じています。
  
 ハウストマト授粉用に輸入したハチに寄生し、日本上陸を果たしたダニ

 セイヨウオオマルハナバチはヨーロッパ原産のハナバチで、1980年代に大量増殖技術が確立され、90年代よりヨーロッパの工場で人工巣が量産されて世界各地で販売されるようになりました。日本でも、91年より農林水産省がハウストマトの授粉用に導入を開始し、現在、7万を超えるコロニーが毎年流通しています。

 本種の導入によって、トマトの生産効率は大幅に向上しましたが、一方で、ハウスから逃亡した個体が野生化して、分布を拡大し、在来のマルハナバチ類の生息域を圧迫していることが問題となっています。

 国立環境研究所が調査した結果、輸入された商品コロニー内のハチ成虫体内から、ハチ体内の気管に寄生して、昆虫の血液にあたるリンパ液を吸って生きているマルハナバチポリプダニというダニが発見されました。

 クワガタムシとダニの進化の歴史

 クワガタを飼育した経験者であるならば、クワガタムシ成虫の背中に無数の白い小さなダニが寄生している場面をよく見たことがあると思います。これはクワガタナカセというクワガタムシ特有の外部寄生ダニで、宿主であるクワガタムシには特に危害も加えず、共生生活を営んでいます。

 このダニはアジア全域のクワガタムシの体表に生息しています。ワガタムシの体表にたまった老廃物やカビ類を食べていると考えられます。クワガタナカセはクワガタムシ成虫の体表上でしか生息できないことから、宿主であるクワガタムシと寄生生物であるクワガタナカセの間には、長い年月を経て共生関係が築かれています。

 クワガタとダニのそれぞれのDNAを調べて系統関係を比較した結果、両方の生物とも遺伝的多様性が高く、宿主であるクワガタムシごとに、それに寄生するクワガタナカセも特異的に種分化していること、その分化の歴史は1,000万年を超えることが示唆されています。

 しかし、この長い進化の歴史も、人為的要因によってかく乱される恐れが高まっています。2000年代に入ってから外国産クワガタムシの飼育ブームによってその輸入が急増しました。もともと生きている外国産クワガタムシは農林水産省の植物防疫法によって輸入が一切禁止されていたのですが、貿易の自由化に伴って、1999年11月に輸入が解禁されて以降、年々、輸入数が増え、ピーク時には年間100万匹を超える個体数が輸入され、現在でも30万匹ほどの生体が輸入されています。

 外国産のダニが国内で分布を拡大すれば、日本固有のクワガタナカセの遺伝的多様性が撹乱され、クワガタムシ−ダニの共種分化の歴史も書き換えられることになります。

 もちろんクワガタナカセ自体は、クワガタムシにとっては、いてもいなくても大した影響のない存在ですが、生物移送にともなって目に見えない微小な生物の進化の歴史にも異変が生じることをクワガタナカセは教えてくれます。

 爬虫類に寄生して侵入するマダニと病原体

 ダニの中には人間に対して直接的に害を及ぼす種も存在し、そのなかの代表的な種類がマダニ類です。マダニ類は世界で1,500種以上、日本国内で約40種が知られる吸血性のダニです。餌はシカやイノシシなどの野生動物の血液で、本来は自然環境中の森林や草むらに生息しています。

 マダニ類は、その体内に病原体を有する場合があり、吸血によって動物や人間に病原体を感染させる恐れがあります。最近、日本国内でも重症熱性血小板減少症候群(SFTS)というマダニが媒介するウィルス感染症が新たに発見され、さらに死亡事例が複数報告されたことで大きな話題となっています。その他、マダニは、回帰熱、日本紅斑熱、ライム病など、様々な感染症を媒介します。

 近年、我が国ではペットとしての外来爬虫類の飼育が流行しており、野生個体が大量に輸入されていますが、こうしたペット用輸入爬虫類に随伴して外来の寄生性マダニ類が日本に持ち込まれるケースが報告されています。

 さらに、これらのマダニ体内における病原体微生物の検査を行った結果、ボレリアという細菌のグループが多数検出されています。マダニ媒介のボレリア類には、回帰熱およびライム病など人間に対して重い症状を示す病原体となるものも含まれますが、今回発見されたボレリアはその遺伝子型から、回帰熱病源型ともライム病原型とも全く異なる新型の系統であることが判明しています。

 即ち、これまで人類が遭遇したことのない未知なる病原体が爬虫類に寄生するマダニとともに日本に持ち込まれ、しかも人の生活空間にまで持ち込まれるリスクが明らかになったのです。

 この新たに発見されたボレリアの健康リスクは現時点では不明とされます。

 そもそも、人の健康に影響を及ぼす感染症は厚生労働省の管轄であり、感染症を媒介する動物の輸入は感染症法によって厳しく規制されています。ところがこの法律で規制対象とされる動物は哺乳類および鳥類という恒温動物のみであり、爬虫類や両生類などの変温動物は規制対象外となっています。

 海外産のペット動物の輸入には、未知の病原体が侵入してくるリスクがあることを我々はもっと知っておく必要があります。

 ハダニの輸入大国、日本

 植物寄生ダニのなかでも特に農林害虫として問題となるのがハダニ類です。ナミハダニはハダニ類の中でも増殖力が強くて、農業現場では特に防除が重要な種とされます。

 日本には、植物防疫法という、外国からの農林害虫の持ち込みを規制する法律があります。この法律に基づき、輸入農産物や園芸植物などは国際貿易港に設置された検疫所で検査されて、もし、病害虫が付着していたら、輸入が差し止められます。

 2003年まで、日本ではナミハダニは立派に検疫対象害虫で、ナミハダニが寄生している農産物や植物は、原則輸入禁止でした。しかしこの検疫制度が非関税障壁、つまり自由貿易の障害にあたると欧米諸国から非難を受けるようになりました。その根拠として、ナミハダニは世界に広く分布するコスモポリタン種で、日本国内にも既に生息している種であり、規制対象とする科学的根拠がないことが挙げられたのです。その結果、日本政府はWTO(世界貿易機関)のルールにも配慮して2004年に本種を規制対象から外すことを決定しています。

 このナミハダニの輸入自由化は、生態学的に明らかに大きな矛盾をはらんでいます。たとえ世界的広域分布種といえども地域ごとに遺伝的変異が存在し、薬剤抵抗性という適応形質にも差があるにも拘らず、それを無視して、国外のナミハダニを持ち込むということは防除上の観点からも、極めてリスクの高い行為となります。しかし、こうした貿易摩擦の解決にあたって、そのような生態学的情報はほとんど議論の俎上に上がることはありません。

 その後も、2011年春には植物防疫法が改正され、農林害虫の輸入規制緩和はさらに進みつつあります。貿易の自由化という大きな波が、検疫というハードルの低下をもたらしているのです。

 このように、4億年も地球上で繁栄して来たダニたちの進化の歴史が、今、人間との関わりの中で、大きく変わろうとしています。ダニの外来種問題を通して、私たちは、経済のグローバリゼーションという止まる所を知らない巨大な潮流がもたらす生物多様性の危機を、私たちは垣間みることができます。

(国立研究開発法人国立環境研究所・侵入生物研究チーム 五箇公一)

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Posted by jun at 2016年01月21日 10:28 in 外来生物問題

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