古来、夏に漬けて長期間発酵させたと考えられてきたふなずしに近年、「江戸時代は冬に漬けた」などの新説が登場、議論が盛り上がっている。ふなずしの謎に迫った。
ふなずしは一般的に、春に捕れた子持ちのメスのフナを1匹丸ごと塩漬けし、夏に飯に漬けて4カ月以上発酵させる。この調理法が古来から続いてきたと考えられてきた。
定説に疑問を投げかけたのが、名古屋経済大短期大学部教授の日比野光敏さん(54)。1689(元禄2)年の料理書に「江州鮒(ふな)のすしは寒の頃に漬ける」との記述を見つけ、1993年に発表した。卵や漬ける期間の記述はなく、「今ほど子持ちを重視せず、特筆するほど長期間漬けてもいなかった」と推測。「今と昔で漬け方が違ったのでは」と問題提起した。
これに呼応したのが、大谷大非常勤講師の櫻井信也さん(54)。さらに時代をさかのぼって史料を調べた結果、奈良−平安時代にアユなどフナ以外の魚を漬けたことや、飯に漬ける期間にも長短があることを見つけた。「現在のふなずしを古代のすしと同じものとみて論じるのは改めるべき」と主張する。
琵琶湖博物館学芸員の橋本道範さん(49)は、室町時代の貴族の日記から、近江産ふなずしの贈答のピークが6〜8月だったことを突き止めた。「フナ漁の旬は春から初夏。すぐ漬けて食べる『ナマナレ』のふなずしだったのでは」と老舗の湖魚料理店に尋ねると「『そんなに早く発酵しない。ありえない』と一蹴された」と苦笑いする。ただ、「1匹丸ごと漬けると無理かもしれないが、切り身なら十分できる。かつては切り身の方が一般的だったのかも」と想像を巡らせる。
さらに現在でも、家庭によっては塩を大量に入れることで発酵を遅らせ、翌夏に食べる−などの例が確認された。橋本さんは「考えられてきた以上に、ふなずしの漬け方は多様なのでは。バリエーションの豊かさこそ滋賀のふなずし文化の特徴として掘り起こしていきたい」と意気込む。
多様さは漬け方だけではない。京都華頂大教授の堀越昌子さん(68)によると、ふなずしを含むなれずしの文化は全国各地にあるが、琵琶湖の魚なら何でもなれずしにするのが滋賀の特徴という。フナのほかにドジョウやアユ、カマツカ、コイ、ハス、ウグイ、オイカワ、ホンモロコ、ナマズ、イサザ、ビワマス、そしてブラックバス…。「多くは神事の中で作られ、だからこそ伝わってきた」と堀越さん。
その起源について、守山漁業協同組合の戸田直弘さん(53)は「ありえへんと言われているけど」と断ったうえでこんな話をしてくれた。守山市にある弥生時代の集落跡・下之郷遺跡からはゲンゴロウブナの骨が大量に見つかっている。「遺跡からはコメも出ているんやから、ふなずしを作って食べていたんちゃうか。そう考えるとロマンがある」