大阪府北東部の高槻市を流れる淀川沿いに広がる「鵜殿(うどの)のヨシ原」。群生する良質のヨシは、雅楽の主旋律を奏でる管楽器「篳篥(ひちりき)」のリード用の素材として貴ばれてきたが、そのヨシ原の保全をめぐって論争が起こっている。発端はヨシ原の真上を通過する予定の新名神高速。ヨシ原の中に橋脚などができることから、住民から「雅楽を支えてきたヨシ原が消えてしまうのでは」と懸念の声が上がる中、西日本高速道路は植物の専門家らでつくる検討会を10日に開催し、対策を検討する。
鵜殿のヨシ原は、桂川、木津川、宇治川が淀川に合流する地点から約2キロ下流の川岸に、甲子園球場約19個分にあたる約75ヘクタールにわたって広がる。
ヨシの茎を削ってつくる楽器のリード「蘆舌(ろぜつ)」は質が高く、江戸時代の書物にも「篳篥の蘆舌は古くより鵜殿の蘆を用いる」との記述がある。
平成24年4月、事業見直しのため凍結されていた新名神高速八幡−高槻(約10キロ)の凍結解除が決まり、そのヨシ原の真上を、高速道路が通ることになった。全面開通は35年度の予定だ。
37年間ヨシ原の調査・保全を続けてきた鵜殿ヨシ原研究所長で植物生態学者の小山弘道さん(75)は「ユネスコの世界無形文化財にも選ばれた雅楽を鵜殿のヨシが支えている。日本の財産だ」と話す。
かつて淀川は梅雨や台風でひんぱんに氾濫し、川岸は冠水と乾燥を繰り返した。「乾燥によるストレスで成長した地下茎が、冠水時にたっぷりと養分を取り込むことで、質のいいヨシが育つのでは」という。
高速道路の真下の区画は特に良質のヨシが育つ。小山さんは「橋脚建設だけでなく、工事用の資材置き場や道路の拡幅でヨシ原の環境は激変する」と懸念する。
鵜殿のヨシ原はかつて絶滅の危機にひんしたことがある。昭和46年、淀川の改修により川岸が冠水することがなくなると急激に生育面積が減少した。改修前、ヨシ原全体の60%を占めていたヨシ群落は、57年には5%にまで低下。
当時調査にあたった小山さんをはじめ地元住民らが再生の取り組みを続け、淀川から水をくみ上げるポンプが設置されるなどして、現在は20%ほどまで回復した。
西日本高速は「ヨシ原の保全を最優先で考えたい」とし、今月には小山さんら植物や地下水、橋の専門家でつくる検討会を開催。雅楽関係者らの意見も踏まえ対策を取る考えだが、同社は「保全にはいろんなやり方がある。ルートは変更しない」と明言する。
今年はじめには地元住民らが国土交通大臣にルート変更など計画の見直しを求める署名を提出する予定で、すでに1万筆を超える署名が集まっているという。
小山さんは「蘆舌のためだけではなくて、ここには千種類を超える生き物がいる。この環境を損なわないでほしい」と訴えている。
検討会のオブザーバーの一人で雅楽演奏家の東儀秀樹さん(53)は「篳篥には平安時代から鵜殿のヨシが使われており、他のヨシでは音が変わってしまう。良質なヨシの育成環境の保全に何が適するのかも含め、総合的に関わっていきたい」としている。
Posted by jun at 2013年01月05日 17:13 in 自然環境関連