絶滅危惧(きぐ)種クロツラヘラサギに釣り糸が絡んで保護されたことは記憶に新しい。10人に1人が釣りを楽しむ時代だけに、放棄された大量の釣り糸・針の生物被害が後を絶たない。溶ける糸や外れやすい針など、環境に優しい釣り具が登場しているが、それらが普及するほど釣り人側の意識は進んでいないようだ。(八並朋昌)
「先日も川崎市登戸の多摩川で、足に絡んだ釣り糸の先に浮きを引きずって泳ぐキンクロハジロが確認された」と、日本鳥類保護連盟(東京都杉並区)の神崎高歩さん。連盟は毎年、愛鳥週間にちなんで「全国一斉テグス(釣り糸)ひろい」を続け、昨年は釣り糸計3万8355メートル、釣り針448個、ルアー45個、重り172個などを回収。被害鳥は確認分だけで昨年が21羽、今年はすでに9羽。「人の目につくのは一部なので、実際の被害鳥はもっと多いはず」と神崎さんはいう。
釣り団体や業界でつくる日本釣振興会(東京都中央区)は、釣り具放棄防止などマナー向上に取り組むが、「釣り団体に属さない釣り人が8〜9割を占め、なかなか浸透しない」と、高橋裕夫事務局長は打ち明ける。
国内の釣り人口は、外来魚のバス釣り人気などで平成10年に2000万人を突破したが、生態系破壊問題などで過熱ブームは沈静化。17年以降は、かつての1000万人台に落ち着いた。それでも10人に1人は釣りをする計算。
そこで日本釣用品工業会(同)は「環境保全型釣り具の開発を促す指針とeマークを制定。今年の国際フィッシングショーまでに釣り糸、重り、ソフトルアーについて9社34製品を認定した」(舘嘉明事務局長)。
生分解釣り糸「フィールドメイト」を8年に発売した東レフィッシング(大阪市西区)は「強度がナイロンの約75%なので、1・3倍ほど太くなり、魚の食いつきへの影響は否定できない。普及は釣り人の意識しだい」と中島康之営業部次長。
実は、大日本蚕糸会の蚕糸科学研究所が、元年に絹で生分解釣り糸を完成させていた。元研究員の小松計一さんは「手術用縫合糸をウレタンなどで防水加工した。強度や細さはナイロン糸と同等だが、コスト面で商品化されなかった」と話す。環境意識が現在のように高まっていれば、市販されていたかもしれない。
一方、釣り針は、針先に「返し」がなく抜けやすいスレ針の普及を、NPOバーブレスフック(スレ針)普及協会(埼玉県入間市)が呼びかけている。「人間や動物に刺さってもすぐ抜けるので傷が軽く済む。バレ(外れ)を心配する人が多いが、何度もの実験で釣果に差がないことがわかった」と事務局の吉田俊彦さんは説明する。
釣り針最大手がまかつ(兵庫県西脇市)も「スレ針の種類を増やしているが、売り上げは全体の1割以下」と広報課の岡田康作さん。「水中で早くさびて分解するよう、強化メッキをやめるなどの配慮もしている」。また「針は一度使うとさびて刺さりが悪くなるので、昔は石の下に置いていく人が多かった。こうした悪習をなくすため、包装に持ち帰りを表記したり、釣りベストに持ち帰りポケットを付けたりもしている」という。
放棄釣り糸・針は人命にもかかわる。第11管区海上保安本部(那覇市)によると、3年に沖縄県読谷村の残波岬沖をグループでダイビング中の40代男性が、海底の釣り糸に絡まり水死した。NPO沖縄県ダイビング安全対策協議会(読谷村)事務局長で写真家の安納昭則さんは「現場付近は海底に引っかけるアンカー釣りの糸が大量に放棄されて束になっている。非常に危険で、サンゴも育たない。また、1年で20〜30キロの鉛の重りがたまる所もある」と嘆く。
被害を繰り返さないためには、一般の観光客も含め、ごみを持ち帰ることが大切だ。