かつて里山で普通に見られた日本固有の淡水ガメ、ニホンイシガメが日本の川から姿を消しつつある。水質悪化や水辺がコンクリートで固められるなど生息環境が悪化したところに、外来カメの急増が追い打ちをかけたとみられており、昨年12月、環境省のレッドリストに初めて掲載された。研究者らは、このままでは絶滅につながりかねないと危機感を募らせている。(文化部 栫井千春)
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「カメが入っている。5匹いるね」。長谷川雅美・東邦大学教授が川から引き揚げた捕獲ワナに子供たちが集まる。千葉県白井市と船橋市の境を流れる二重川では平成15年から毎年夏、NPO法人しろい環境塾と東邦大学の長谷川雅美研究室が共同でカメの生息調査を行っている。
エサの入った網かごを仕掛け、入ったカメの種類、体長、年齢などを長谷川教授らの指導を受けて地域の子供たちが記録して、川に戻す。8月25、26日に行われた今年の調査では46匹が捕獲され、うち42匹が在来淡水ガメのクサガメ、4匹が北米産のミシシッピアカミミガメで、イシガメは見つからなかった。
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二重川の調査では15、16、18年に1匹ずつイシガメが見つかったが、河川改修工事が年々進んで土手や川底が平らにされているため、土手や川底のくぼみで越冬するイシガメの生息環境が悪化している。「河川改修工事が行われる以前のデータがないので一概には言えないが、工事で死んだり、埋め立てられたりするカメは多いはず。生き残っても越冬地を奪われては生息できない。かつてはここにも多くのイシガメが棲(す)んでいた可能性は否定できない」と長谷川教授は言う。問題は越冬だけではない。水辺がコンクリートで固められると、産卵やエサを取るために水と陸を行き来することもできなくなる。
日本産淡水ガメにくわしい矢部隆・愛知学泉大学教授は、「生息地のため池が埋め立てられたり山間部の田んぼが耕作放棄で荒れ果てたりしている。何年か前までイシガメがいたのに、いなくなってしまっている池や川も多い。イシガメが絶滅の危機に瀕(ひん)していることは間違いない。早急に何らかの対策をとらないと」と警告する。
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外来ガメの急増もイシガメを脅かしている。財団法人日本自然保護協会が平成15年に行ったカメの全国調査では、目撃された5966匹のうち62・15%(3708匹)がミシシッピアカミミガメで、イシガメは9・89%(590匹)だった。アカミミガメは子ガメが「ミドリガメ」の名でペットとして販売されている。逃げたり捨てられたりしたものが広がったとみられる。成長すると日本産のカメより体が大きくなる上に、一度に産む卵の数も多く、エサや生息場所をめぐる競合では優位に立つ。
イシガメの研究者は国内に少なく、環境省のレッドリストには掲載されたものの、絶滅のおそれを評価するだけのデータが足りない「情報不足」のカテゴリーに分類されている。長谷川教授は「データを集めて、行政に河川改修について提言し、土木工学と連携してカメをはじめとした生き物が棲める環境を回復したい」と話す。現在は点にすぎない市民と研究者の協力を、線から面へと広げていけるかどうかがイシガメ保護への第一歩になりそうだ。