2018年11月16日

危険ウイルスもつ外来サルが勢力拡大、米フロリダ

 30%のサルから人命に関わるBウイルスが見つかったと報告
 米国フロリダ州のシルバースプリングス州立公園には、南アジアや東南アジア原産のアカゲザルが少なくとも300匹は生息している。繁殖が早く、何らかの措置を取らなければ2022年までに生息数が今の2倍に増えると予測されている。

 10月26日付けの学術誌「Wildlife Management」に発表された調査報告書は、サルが増えすぎると公園の安全性が損なわれ、観光客にも深刻な被害が及ぶ恐れがあると警鐘を鳴らした。サルによって引き起こされる問題は様々だが、なかでも心配なのは、園内のアカゲザルから人の命に関わるBウイルスが見つかったことである。サルから人間への感染例はわずかだが、感染すれば脳や脊髄に炎症を起こし、脳障害を引き起こしたり、死に至ることもある。

 フロリダ州にアカゲザルがやってきたのは1938年のこと。ツアー船を経営していた「カーネル・トゥーイー」と呼ばれる人物が、現在は州立公園になっている敷地内の小さな島にターザンをテーマにしたアトラクションを作ろうと計画した。そこでニューヨーク市の霊長類ディーラーから6匹のアカゲザルを購入し、島に放した。ところが、その計画はすぐに頓挫した。

 トゥーイー氏は知らなかったのだが、アカゲザルは泳ぎが得意だった。島に到着して数時間もたたないうちに、赤ら顔のサルたちは森へ逃げてしまった。しかたがないのでもう6匹持ち込んだが、それも逃げ出した。そのサルが繁殖し、1980年代には、20平方キロメートルの公園内に数百匹が生息するようになった。

 1984年から2012年の間、繁殖の速度を抑え、人間との接触を避けるために、州政府は1000匹以上のサルの駆除を許可した。また、20匹のメスザルに避妊手術を施した。

 だがサルは増え続けている。米テキサスA&M大学キングスビル校の野生生物生態学者で今回の調査チームを率いたジェーン・アンダーソン氏によると、現在は年間11%前後の速度で増えているが、毎年メスの半分に避妊手術を施せば、個体数は3分の1に減らせるという。

 また、成体と成体に近いサルの半分を2年ごとに16年間駆除し続ければ、アカゲザルは完全に根絶させることが可能だとアンダーソン氏は言うが、地元住民はそこまでの措置を支持していない。

 避妊手術と駆除は、2012年に突然打ち切られた。サルが公園から運び出されて売られていた事実が明るみに出たのである。州の許可を受けた業者は、それまでに1000匹以上のサルを捕獲して生物医学研究に売り渡していたとして、動物愛護団体の非難を浴びた。ある業者は、ひとりで700匹のサルを捕獲し、売り飛ばしていた。

やっかいなサル

 アカゲザルは霊長類のなかでもとりわけやっかいであると、米サンディエゴ州立大学の人類学者で人間と動物の関係について研究しているエリン・ライリー氏は言う。「彼らは、他の動物ほど人間を恐れず、時に大変な悪さをすることもあります」

 2016年、サルの攻撃的な態度が問題となり、公園は一部閉鎖を余儀なくされた。そして2017年夏にも、園内の遊歩道で観光客の家族がサルに追いかけられ、再び一部閉鎖に追い込まれた。

 被害は公園の外にまで飛び火している。ある民家では、裏庭に置いてあったシカ用のエサ箱に数十匹のサルが群がってエサを大量に盗むという事件が発生した。これは公園のすぐ近くでの出来事だが、公園から160キロ離れた別の町でもサルが目撃されている。アカゲザルのコロニーは既に園外にまで拡大し、別の場所にも簡単に新しいコロニーを形成できると、専門家は警告している。

 アカゲザルは主に草食だが、昆虫や小型の無脊椎動物、鳥の卵も食べる。色々なものが食べられるなら、ほとんどどんなところでも生存できるだろうと、ライリー氏は言う。原産地以外では他にも、フロリダ半島南端沖のフロリダキーズ諸島やプエルトリコを含む各地でアカゲザルの集団が形成されている。

 2013年、ライリー氏はナショナル ジオグラフィックの支援を受けて、アカゲザルがどのようにしてフロリダ州の環境に適応したかを調査した。すると、トネリコの木などを食べる以外にも、人間から時々エサをもらっていることが明らかになった。シルバー川から園内に入ってくる船のうち10分の1は、違法にサルにエサをやっているという。ライリー氏は、そのためサルが人間を恐れなくなり、問題につながると警告する。

 サルは「人間がエサを与えようとしてすぐ近くまで寄らなければ、それほど凶暴な動物ではありません」と、現地でツアー船のガイドを務めるデビー・ウォルタース氏は言う。

 1977年から1984年の間、サルの個体数は400匹ほどだったが、この期間にサルに襲われて怪我をしたとして、フロリダ州魚類野生生物保護委員会に報告された被害件数は23件だった。84年以降は、記録をつけていない。

感染症を運ぶ侵略的外来種

 2018年、米国の疾病予防管理センターの科学者は、シルバースプリングス州立公園に生息するアカゲザルの30%からBウイルスが見つかったと報告した。Bウイルスは希少だが強力で、人間が感染すれば命に関わる。人間への感染は過去に50例ほどしか報告されていないが、知られている限り、野生のアカゲザルからの感染は一例もない。1997年、研究室のサルの体液が誤って目に入り、22歳の研究助手が死亡した。

 人間がBウイルスに感染すると、脳や脊髄に炎症が起こり、深刻な脳障害を引き起こし、死に至ることもある。感染経路はサルの尿、唾液、糞など。サルは糞を人間に投げつけることがある。

 だが、多くの地元住人はサルの存在に好意的で、駆除までは望んでいない。

 ウォルタース氏は、「アカゲザルはもうここに80年もすんでいます。自分たちが好んで来たわけではありません。もう嫌になったからという理由で駆除するのは、人間の身勝手です。他にも感染症を引き起こす動物はたくさんいますが、それを殺そうとまではしないでしょう」と話す。

 ウォルタース氏は、サルの避妊手術や別の場所へ移動させる取り組みは支持するが、殺したり生物医学研究のために売るような管理計画には反対だという。

 小さな集団であるアカゲザルが環境へ与える影響ははっきりしないが、プエルトリコとフロリダキーズの一部で行われた調査では、マングローブの木を破壊したり、川を汚染したり、固有種の鳥を殺すなど環境被害が報告されている。

個体数管理の必要性

 シルバースプリングスでサル生息数の調査に関わったジョンソン氏は、「かわいくて駆除するなんてかわいそうという気持ちもわかりますが、野生化したブタやビルマニシキヘビ同様、アカゲザルは外来種です」と話す。ブタとビルマニシキヘビは、固有種への深刻な被害から、フロリダ州では殺処分を奨励している。

 今年1月、州魚類野生生物保護委員会は、公園の管理を引き受けたばかりの州環境保護局に対し、アカゲザルの個体数管理計画を実施するよう求めた。

 同委員会の副委員長であるトーマス・イーソン氏は、「管理計画が実行に移されなければ、個体数は増え続け、人間が負傷したり感染症にかかる危険性が高まるでしょう」と述べている。

 だが、具体的な措置となると、誰もが決めかねている。この手の決断は「人々の感情や資金、政治的雰囲気など様々な要素に基づいていなければなりません」と、アンダーソン氏は言う。

文=Annie Roth/訳=ルーバー荒井ハンナ

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Posted by jun at 2018年11月16日 12:36 in 外来生物問題

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