2018年05月26日

日本の生態系を脅かす外来生物は、悪者ではない

 都会で暮らしていると、子どもが自然や生き物に触れる機会がなかなかない……そんなふうに感じている人も多いのではないでしょうか。「身近な自然のことを知るには、まずは池や川に注目して、水辺の生き物に興味を持ってもらえれば」。そう話すのは、生物学の専門家として静岡県を拠点に地域の環境保全に取り組み、バラエティー番組などでも活躍する静岡大学講師の加藤英明先生です。

 この連載では、都市部で見られる生き物のことや、生態系に起きている変化、その原因となっている生き物と人間との関わりについてお話を聞いていきます。内容をぜひお子さんにも伝えてあげてください。

●都市部の池や川で増えている「外来生物」って?

 テレビ東京の「池の水ぜんぶ抜く」という番組で昨年、横浜市の徳生公園で水抜きをしました。普段からごく当たり前にある池ですが、水を抜くことで中の環境が分かるということで、大人から子どもまで、地元の方が2000人くらい集まりました。皆さん身近な自然に興味はあるんですよね。ただ学ぶ機会となると、あまり多くないのかもしれません。この連載では、都会生活でも生き物の世界のことを学べる、池や川といった水辺で起きている変化についてお伝えしていきたいと思います。

 皆さんの家の近くにある川や池には、生き物はいますか? いるとしたら、それはどんな生き物でしょうか? 今、都市部の生態系で起こっている大きな変化として、外来生物の問題があります。ここ数年メディアで取り上げられる機会もぐっと多くなったので、外来種や外来生物といった言葉を耳にしたことがある人も多いのではないでしょうか。

 外来生物というのは、もともとそこにはいなかったのに、海外など別の場所から持ち込まれた生き物のこと。アカミミガメ、カミツキガメ、ブルーギル、ウシガエル、アメリカザリガニ……。都会の川や池に多数の外来生物がいることが、大きな問題となっています。

 外来生物に対し、昔から日本にいる生き物のことを在来生物といいます。イシガメ、メダカ、トノサマガエル、テナガエビなどがそうです。生き物には相手を駆逐して上に立とうとする性質があるので、ある生き物が増えればそれを捕食する生き物が増えます。一時的な波はあっても、在来生物の世界はそうやってバランスが保たれ、生き物は進化し、生態系が形成されてきました。そこにまるで違う環境で生きていた外来生物が放されたら、それまでのバランスが崩れてしまいます。生き物に罪はなくても、取り除かなければならないんですね。

 ちなみにもともといなかった生き物でも、自分の力で外からやってきた生き物は外来生物とは言いません。例えばツバメは台湾やフィリピンから飛んできますよね。こういう渡り鳥は在来生物扱いで、取り除く対象とはしません。移動する力を身に付けたものが侵略していくのが、生き物の世界の摂理だからです。

「外来種=悪」は間違ったイメージ

 最近は、カミツキガメといえば「凶暴なんでしょ?」っていうように、外国から持ち込まれて野外に繁殖してしまっている生き物がいるということが一般にも知られるようになってきました。外来種の問題に関心が高まっているのはいいことですが、それによって「外来種=悪いもの」というイメージが先行しています。でも、これは正しくありません。例えば動物園にいるのはすべて外来生物です。パンダやキリンを「悪いやつだ!」って言う人はいませんよね。外国産のクワガタを家で飼っていたとしても、全く悪いことではありません。

 動物園の動物たちは見る人の心を癒やし、生き物の生態を学ぶ機会を子どもたちに提供してくれます。生き物を飼うことは、命を死ぬまで大事に扱う責任能力を高めることにつながります。外来生物は「きちんと管理しないこと」が問題なのです。では、なぜ管理されるべき外来生物が、野外でたくさん見られるようになったのでしょうか。

●ペットとして輸入されたアカミミガメが、今や野外に800万匹!

 池の水抜きなどで大量に見つかっているアカミミガメは、ミドリガメという通称で1950年代後半からペットとしてアメリカから輸入されるようになりました。アジアではカメは勤勉、我慢強い、長寿などプラスのイメージがあって、悪く思う人がいません。子ガメは体長数センチと、姿かたちも愛らしい。値段も安く、衝動買いしやすいんです。縁日などで目にした子どもが「欲しい!」と言うと、犬や猫は飼えなくても、「カメくらいなら」と親も気軽に許します。

 でも、犬や猫の寿命は15年前後、長くて20年程度ですが、カメは40〜50年生きます。最初は面倒を見られても、大人になれば仕事を持って、家庭を持ってと生活が大きく変わっていく。それに小さくてかわいいと思っていたカメも、どんどん大きくなります。そうした中で、最後まできちんと飼えるのか、本当はカメを買う時点で考えておかなければいけないわけです。

 犬や猫ならしつけの本を買い、家族できちんと話し合って家に迎えるのに、カメはお年玉をもらってパッと買いに行くような、玩具的な扱いがされてきました。アカミミガメを買った多くの子どもがどうしたかというと、大体中学生ぐらいから勉強や部活が忙しくなって面倒を見るのが難しくなる。そこで親は「じゃあ、川に放してあげなさい」と言うわけです。狭いバケツの中でろくに水も替えてもらえないような環境に置くくらいなら、野外に放してあげたほうがカメのためにもいいという感覚です。

 人気がピークだった90年代半ばには年間100万匹のアカミミガメが日本に入ってきていました。寿命を考えればまだ十分生きています。もちろん今もきちんと面倒を見ている人もいるでしょうけれど、環境省では野外に放されたアカミミガメが約800万匹に上ると推計しています。

 アカミミガメの原産地には、ワニやアリゲーターガーといった凶暴な生き物がいます。そうした環境を生き延びてきたアカミミガメを抑える生き物が、日本にはいません。全国各地の川でアカミミガメが在来種のカメを圧倒し、生態系に深刻な影響が出ています。 

アカミミガメに場所を譲る「お人よし」のイシガメ

 生き物も人間と同じで、長い歳月の中で環境に応じた性格がつくられます。日本の生き物は狭い土地の中で生き残れるよう、譲り合い、すみ分けることを好む傾向があります。凶暴な生き物がいないせいか、性格も全体的におだやか。例えば在来種のイシガメは、どんなにいじめられても絶対にかみません。でもアカミミガメはすぐかみつきます。アメリカではカメが子どもにいじめられる「浦島太郎」みたいな昔話は生まれないでしょう。

 もし近くの池や川にイシガメがいたら、そこは昔ながらの環境が保たれているいい水辺ですね。イシガメは体に付いたヒルなどの寄生虫を落とすために、岩場で日光浴をします。でもそこにアカミミガメが来ると、場所を譲るんですよ。そうするとイシガメはヒルを落とせなくて、どんどん血を吸われて死んでしまう。お人よしなんです。

●大切なのは、生き物のことを正しく知ること

 一度変わってしまった自然環境は、外来生物を取り除くことでしか元に戻すことはできません。万単位の数まで増えたものを駆除するには、長い時間とお金(税金)がかかります。そして、池の水抜きで捕獲した大量のアカミミガメやコイなどは、殺処分になります。生き物には何の罪もありません。人間がまいた種です。

 しかも、どんなに駆除しても、誰かが「自然に帰してあげよう」などと言ってペットのカメや熱帯魚を川に放したら、また同じことの繰り返しです。私もずっと地元の静岡で外来種のカメの捕獲をしてきましたが、川で作業をしていて地域の方に「昨日ここにカメを3匹、捨てに来た人がいるよ」なんて言われると、ものすごい無力感に襲われます。

 何も知らない子どもが「川にこんなカメがいた」とバケツに入れて学校に持ってきたときに、先生が「川に放してあげようね」と言ってしまったらどうなるでしょうか。ペットの動物を野外に放すことは動物愛護管理法違反に当たり、100万円以下の罰金が科されます。知らないうちに子どもに犯罪行為をさせてしまうことになるのです。

 自然の環境を、本来の姿に戻す。そのためには子どもから大人まで、一人でも多くの人に生き物について正しく知ってもらうことが大事だと思っています。

(取材・構成/日経DUAL編集部 谷口絵美)

加藤英明(かとう・ひであき)
静岡大学教育学部講師。1979年静岡県生まれ。静岡大学大学院教育学研究科修士課程修了後、岐阜大学大学院連合農学研究科博士課程修了。博士(農学)。カメやトカゲの保全生態学的研究を行いながら、学校や地域社会において環境教育活動を行う。また、未知の生物を求めて世界中のジャングルや砂漠、荒野へ足を運び、その姿は「クレイジージャーニー」(TBS)で「爬虫類ハンター」として紹介されている。外来生物が生態系に及ぼす影響についての研究にも取り組み、「池の水ぜんぶ抜く」(テレビ東京)に専門家として参加するなど幅広く活動中。

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Posted by jun at 2018年05月26日 10:48 in 外来生物問題

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