午前4時半。滋賀県野洲市菖蒲の菖蒲港沖の琵琶湖は真っ暗だ。アユの稚魚「氷魚」が跳ねる中、大きな魚影が光った。「ブラックバスや」。刺すような冷たさの水に手を入れ、何度も網をたぐり寄せる。
■74年に初確認
昨年12月中旬、漁師の松沢松治さん(71)=同市菖蒲=と港を出航し、魚を捕獲するため設置している仕掛け「えり」に向かった。かじかんだ手足を船上で沸かしたお湯で温めながら、黙々と作業を繰り返す松沢さん。「1980年代は1年間で10匹もとれなかった。今は毎日網にかかる。多い時は5、6匹。外来魚が増えると同時に、琵琶湖の固有種が嫌と言うほど減った」とため息をつく。
ブラックバスは、オオクチバスとコクチバスの通称。ともに北米原産の外来魚。県内では74年、オオクチバスが彦根市沿岸で初めて確認され、今は琵琶湖全域で繁殖している。コクチバスは、95年に高島市マキノ町で初確認されたが、琵琶湖での繁殖はまだ確認されていない。
魚食性が強いのも特徴。ニゴロブナやホンモロコの食害など、琵琶湖の在来魚への影響は少なくない。県では有害外来魚対策として、捕獲・駆除にも取り組む。独自の条例を制定し、県内全域で再放流も禁止している。
この日のえり漁で捕獲したのは体長55センチ、重さ2・6キロのオオクチバス1匹。松沢さんの次女、中川知美さん(43)がぬめりのある皮を剝いで、三枚におろしてくれた。まるでタイのような見た目の白身が現れた。
「刺し身で食べてみるか」と松沢さん。恐る恐る口に運ぶと、懸念していた臭みは全く感じなかった。さっぱりとした味わいで歯ごたえもある。箸が進む。「ブラックバスはスズキの仲間。見た目がグロテスクで敬遠されるけれど、おいしいでしょう」と中川さんもほほえんだ。
■バーガー人気
松沢さんが、漁で捕獲するブラックバスは、中川さんが実家で開く魚屋「BIWAKO DAUGHTERS(ビワコドーターズ)」で加工し、販売している。ブラックバスのフライを挟んだバスバーガーは人気の一品。だが、実は「売っても損」の商品だという。
県漁業協同組合連合会では、県からの補助を受けてえり漁などで捕獲した外来魚を1キロ330円(2017年度)で買い取っている。「買い取ってもらったほうがもうかる」と松沢さん。「外来魚がおいしく食べられることが分かれば、駆除がもっと進むかもしれない。食べることで琵琶湖の現状への関心を高めたい」。漁師の天敵を通じ、湖の幸の危機を訴えかけている。