2017年04月13日

メスだけで繁殖する外来ザリガニ「ミステリークレイフィッシュ」日本に上陸

 今年の3月末に、愛媛県松山市の河川で見慣れないザリガニが発見されたというニュースが流れました。記事を読んで見ると、見つかったのは「ミステリークレイフィッシュ」と呼ばれる外来種のザリガニでした。

 しかも、記事には、このザリガニはメスだけでクローン繁殖する珍しい種であり、野生化すると大繁殖してしまうかもしれない、ということも記されていました。

 国内では、ペットとして流通しており、今回発見された個体もおそらく飼育されていた個体が逃がされたものであろうと考えられています。

 2003年にNature誌に発表された論文によれば、このザリガニは、もともとは北米に生息しているProcambarus fallaxというザリガニが変異して単為生殖(クローン繁殖)を行う系統となったものと推測されています。

 単為生殖をする珍しい「ミステリークレイフィッシュ」

 この論文の著者であるドイツのフンボルト大学Scholtz博士も、ザリガニの仲間で単為生殖をする種はこれまでに報告はなく、このミステリークレイフィッシュは生殖様式に進化を研究する上でも興味深い材料であるが、同時に、爆発的な繁殖力を示すことから外来種として生態系に脅威を及ぼす恐れがあることを指摘しています。

 外来ザリガニの代表格「アメリカザリガニ」はウシガエルのエサとして導入

 日本には、このほかにも以前から外来ザリガニが繁殖して問題になっています。代表的な種がアメリカザリガニになります。真っ赤な身体に立派な鋏をもつアメリカザリガニは、ペットや実験動物としても国内で広く愛用されていますが、もともとはウシガエルの餌用に1927(昭和2)年に北米から輸入されたものです。

 ちなみにウシガエルは1918年に食用として、同じく北米から輸入された外来種。どちらも、あのマングース導入に一役買った東京帝国大学教授で動物学の権威・渡瀬庄三郎先生であったというエピソードは有名です。

 ウシガエルは今や、有害な外来生物として、環境省「外来生物法」の規制対象種である「特定外来生物」にも指定されて、全国各地で防除活動が進められていますが、昭和初期から戦後にかけての日本の近代化および復興の時代において重要な食糧資源として重宝されてきました。

 アメリカザリガニもまた導入時は、ウシガエルの生産を支える資源として、また日本人の食糧資源としても活用されたのです。しかし、日本経済が豊かになり、これらの外来種を食糧として必要なくなったことで、今では厄介な外来生物としてそのステータスが転落しました。

 アメリカザリガニは水の汚れた水域でも生息できて、日本全国の水田や用水路、ため池、湖沼等で旺盛に繁殖して、水草や稲に大きな被害をもたらします。またトンボのヤゴなど、水生昆虫類を補食し、水生生物の多様性低下も引き起こします。

 アメリカザリガニは、今でも食べようと思えば食べられないことはないのですが、泥抜きをしっかりしないと臭みが気になるのと、身体の大きさに比べて食べる部分が少なく、手間の割には満足感が得られにくいことが、特に日本人にとっては難点のようです。

 筆者は、中国・北京市のレストランで食べたことがありますが、香辛料をたっぷり使って炒められたザリガニは想像以上に美味しかったのを覚えています。手袋をはめて、みんなで円卓を囲み、ワイワイ言いながら大きなボウルからザリガニ炒めを取り出し、手でむいたザリガニをソースで口の周りを真っ赤にしながら食べるのはとても楽しかったですが、今の日本人にこうした食のスタイルは異質なものに映るかもしれません。

 ところで、かつて食用に輸入され養殖されながら、今では有害外来生物となってしまった外来種にオオクチバスという肉食魚も挙げられます。日本の淡水生態系ではオオクチバスのような大型の肉食魚は進化して来なかったので、自然状態では恐らくオオクチバスが持続的に個体群を維持することは難しいと考えられます。彼らが日本の湖沼で旺盛に繁栄できるのも、日本人自身が湖沼環境を改変し、様々な魚を漁業資源として移送・放流し、オオクチバスにとって棲みやすい生息地を提供してきたからであるといえます。

 実は外来種のアメリカザリガニもオオクチバスにとって貴重な餌資源となり、その個体群の成長に寄与してきました。なので、オオクチバスとアメリカザリガニが同所的に生息している水域では、オオクチバスだけをさきに駆除してしまうと、アメリカザリガニが爆発的に増えて、水草を台無しにしてしまい、かえって水環境が悪化するという事態も起こります。

 こうしたケースではやはり、餌となるアメリカザリガニと天敵となるオオクチバスを同時並行して計画的に駆除する必要があり、非常に労力とコストを要することになります。いろいろな外来生物が野生化する中で、外来生物同士で新たな生態系が築かれていることを指し示しているとも言えます。

 食用目的輸入され、逃亡個体が野生化した「ウチダザリガニ」

 日本にはもう1種、有名な外来ザリガニが生息しています。それがウチダザリガニです。こちらも食用目的で1926年に北米から輸入され、北海道を中心に養殖が行われ、その逃亡個体が野生化しました。

 本種はアメリカザリガニよりも冷水を好み、これまでに北海道、福島県、栃木県、長野県、滋賀県の湖沼や河川で分布が確認されています。冷水性とされますが高温耐性も備わっており、千葉県でも定着が確認されています。環境適応能力は高そうなので、今後、全国的に分布を広げる可能性も懸念されます。

 アメリカザリガニと異なり冷水域で分布を広げたことから、在来種のニホンザリガニの生息域を奪い、密度低下を招いていることが問題とされます。また阿寒湖では、天然記念物のマリモを食害することが報告されています。

 ウチダザリガニは、アメリカザリガニよりも大きく、食べ応えがあるので、北海道では積極的に捕獲個体を食材として活用する事業が進められています。食べて減らすという活動は、外来生物駆除において非常に有効な手法と考えられますが、一方で、商業価値をもってしまうと市場原理で持続的な安定供給が求められることとなり、駆除の妨げになる可能性も考慮に入れておく必要があります。

 実際に、売れれば売れるほど、食材としての外来種の駆除は進むことになりますが、駆除が進めば売り物が入手できなくなり、商売としては成立しないことになります。そうなると販売業者が手を引き、捕獲圧が低下することで、また外来種個体群が復活することに……。

 いずれにしても、密度が低下してから根絶に導くまでは、コストばかりがかかって利益が見込めない作業となりますから、やはり政府や自治体が責任を持って駆除活動を継続する必要があります。

 また、外来ザリガニが水生生物であることも駆除を困難なものとしています。水を汚染させることになるので、化学的な防除は極めて難しく、現状では捕獲以外に手段がありません。

 確実な根絶手法が未開発の現段階では、まず優先すべき対策は、これ以上分布域を広げないことです。特にアメリカザリガニもウチダザリガニも、子供のみならず大人から見ても大きくて立派な鋏や、美しい体色がとても魅力的な甲殻類です。野外で見つけたらついつい持ち帰って飼育したくなるのは人情です。

 しかし、どちらも有害な外来生物であり、むやみに移送してはならないことは周知しておかなくてはなりません。特にウチダザリガニは環境省の特定外来生物に指定されており、生きた個体の移送や飼育は法律で禁止されています。

 冒頭で紹介したミステリークレイフィッシュのようにこれからも新しい外来ザリガニがペットとして輸入されてくるものと思われます。一度逃がされた外来ザリガニは、とりかえしのつかない生態影響を及ぼし得る、という事実はできるだけ多くの人に知ってもらう必要があります。

【連載】終わりなき外来種の侵入との闘い(国立研究開発法人国立環境研究所・侵入生物研究チーム 五箇公一)

+Yahoo!ニュース-IT・科学-THE PAGE

Posted by jun at 2017年04月13日 13:07 in 外来生物問題

mark-aa.jpg