ブラックバスなど日本の生態系を乱す外来種がいるのと同じように、日本から海外に渡って諸国で猛威を振るう植物がある。タデ科の多年草イタドリだ。京都とも縁が深いこの「雑草」の足跡と、世界各地での猛威の様子を写真家の渡邊耕一さん(48)=大阪市=が追いかけ、出版社「青幻舎」(京都市中京区)から写真集「Moving Plants」として刊行された。
イタドリとは、雌雄異株で高さ30〜150センチになる。春にタケノコのような茎を出し、夏から秋にかけて枝先に白色の小さな花を付ける。関東以北には高さ2〜3メートルになるオオイタドリが野生する。「虎杖(こじょう)」とも呼ばれ、茎が太く、軽いため、つえに向いている。
渡邊さんの写真集によると、19世紀初頭に長崎の出島オランダ商館付医師であるシーボルトが日本の植物を欧州に多く持ち帰り、その中にイタドリも含まれていた。オランダに戻ったシーボルトは1839年、「日本の植物輸入と栽培の普及を図る」ための協会をつくり、植物の通信販売を始める。「ここからイタドリが欧州に広まった」と渡邊さんは指摘する。
イタドリは京都にもある。明治初期まで貴船神社(左京区)の春の貴船祭はイタドリが盛んに生える時季に当たり、「いたどり祭り」と呼ばれた。その名は「痛み取り」に由来するとの説がある。また、かつて東寺(南区)境内の灌頂(かんじょう)院の庭では、開門日に信者たちが先を争ってイタドリの根を掘って無病息災のまじないにしたとされている。
渡邊さんは写真家として北海道で風景を撮影する中で、端々に登場する「巨大な草」に関心を抱いた。原産地の生態系から解放されて異国で猛威を振るっていることを知り、足跡をたどり始めた。全土に広がって国として駆除に乗り出している英国をはじめ、ポーランド、オランダ、米国を訪れ、街で繁茂する様子を撮った。
2007年に撮影されたニューヨーク郊外の写真は、崩れそうな廃屋に襲いかかるように青々としたイタドリが覆う。遠く摩天楼を望むセントラルパークでも木々に交じってその葉を茂らせていた。「そこで暮らす人々のほとんどは由来はおろか名前すら知らない植物が、まるでずっとそこにいるかのような顔で幅を利かせていた」
渡邊さんは長崎のシーボルト記念館も訪れ、1843年にイタドリがジャワの植物園経由で導入されたという記述を見つけた。
シーボルトの植物標本が保管されているオランダ・ライデンの国立標本館では、日本語で「イタドリ」と別名「コジョー」が直筆で書かれた標本ラベルを確認した。
写真集によると、16世紀以降、西ヨーロッパ各地に植物園が設立され、世界中から集められた新しい植物の商業的な活用が図られた。イタドリの「輸入」はその一環だった。イタドリが商品化された19世紀半ば以降は汽船の時代になり、世界を覆う資本主義の土台である物流環境が整っていった。渡邊さんは「イタドリの今を通して資本主義の在り方について目を向けてほしい」と語る。