2015年12月11日

日本上陸の懸念も、刺されれば死に至る外来アリに備える

 前回紹介したセアカゴケグモとともに近年分布を拡大して問題になっている外来生物にアルゼンチンアリという昆虫がいます。その名の通り、南米アルゼンチン原産のアリです。このアリは1993年に、広島県廿日市市で、初めて国内に侵入・定着していることが発見されました。

 ジプシー型のコロニーに女王アリが多数君臨する、アルゼンチンアリ

 その後、1999年に兵庫県神戸市、2001年山口県岩国市、06年愛知県田原市、07年大阪府大阪市および岐阜県各務原市、09年静岡県静岡市および京都府京都市、10年徳島県徳島市および東京都大田区、11年岡山県岡山市、そして2015年大阪府堺市と、瀬戸内から太平洋沿岸地域にかけて分布地域が次々と報告されています。

 主に港湾周辺の地域で生息が確認されており、その侵入に船舶による物資の移送が大きく関与していることが推測されますが、海に面していない京都市や岐阜県内でも発生が認められていることから、国内での物資の移送に伴う外来アリの分布拡大が始まっていると考えられます。

 また、彼らは、港湾施設に隣接する緑地帯、宅地や公園、畑地、など人工的に整備された環境に営巣しており、造成・建設などの土地開発に伴って、土砂や緑化植物とともに運ばれているものと予測されます。そう考えると、生息地域や分布拡大プロセスは、前述のセアカゴケグモと類似しています。クモもアリも小さくて、日常的に気にかける動物ではないため、侵入初期は気付かれにくく、分布が広がってから発見されるというケースが多いのです。

 本種は典型的なジプシー型の生活様式をとる種で、普通のアリのような巣穴や蟻塚を作ったりせず、ブロックの下、放置されたゴミの山の下側、マンホールの裏側、畑のビニルカバーの裏側など、風雨をしのげる場所に仮の宿を作って過ごし、いつでも環境が悪くなるとコロニー(営巣集団)ごと移動することができます。しかもその一つのコロニーに多数の女王が生息し(これを多女王性という。普通のアリの巣は単女王性)、それによって多数の働き蟻を生産して巨大なコロニーを作り上げます。

 侵入時間が浅いうちに、防除対策を実施 根絶の一例になるか?

 たかがアリですが、その数が増えると大きな被害が生じます。アルゼンチンアリの場合は、毒針は短く、人間を刺すことはほとんどありません。しかし、上記のように多女王性の巨大コロニーを作り上げると、周辺にもともと生息していた在来のアリ類や、その他の昆虫・クモ類等を駆逐してしまい、さらに人家に大量に侵入し、食物にたかるなどして、人間に対して大きな精神的苦痛を与えます。

 実際に、廿日市市では住宅街において本種が大発生し、台所においてあったケーキに瞬く間にアリが群がり真っ黒になっていたり、朝、目覚めたら寝ていた布団の中でアリが巣を作っていたり、などの侵入被害報告が多数あり、住民たちの中にはノイローゼ寸前になるひともでてきました。

 アルゼンチンアリは日本に限らず、北米、ヨーロッパ、オーストラリア、ニュージーランドなど世界に広く分布を拡大しており、ヨーロッパには1800年代から侵入していたと考えられ、外来生物としての歴史は割と古いといえます。同時に海外では、そのコロニーは数十から数百キロメートルという長さにもおよび、その侵入エリアにはアルゼンチンアリしか存在しないというほどのインパクトを与えています。

 日本は、上記の海外での侵入状況と比較すれば、まだ、侵入後の時間が浅く、分布もコロニーサイズも限られたものであることから、根絶を目指して早急に手をうつことが肝要です。我々国立環境研究所侵入生物研究チームでは、東京都に侵入したアルゼンチンアリ集団を対象として、薬剤による防除試験を行い、集団を根絶する、すなわち個体数をゼロにするまでに必要な薬剤の処理タイミング、処理量、および個体群密度の測定などの方法を検討し、実際に、集団の根絶に日本で初めて成功しました。

 国立環境研究所はこの試験で得られたデータを基に環境省と共同で「防除マニュアル」を作成して、HP上に公表しました。現在、神奈川県、静岡県、京都府、大阪府、兵庫県、および岡山県において、本マニュアルにのっとり、防除事業が推進され、確実に集団の密度を低下させることに成功しており、第2、第3の根絶事例となる日も遠くないと思われます。

 さらに危険なヒアリ、日本上陸の懸念 刺されれば死に至ることも

 我々としては、最終的にアルゼンチンアリを日本から一掃することを目指しています。そこまで高い目標を掲げている理由として、実はもっと危険な外来アリが早晩この国に侵入してくる可能性があり、このアリの侵入に対して万全の防除体制を現時点で構築しておく必要があるからです。

 その外来アリがヒアリという、アルゼンチンアリと同じく南米原産のアリです。本種も多女王性の巨大なコロニーを形成し、主に乾いた土壌中で営巣します。巣自体の移動能力は乏しいのですが、新女王やオスアリは羽アリとしてかなりの長距離を飛翔することができるので、移動分散によって急速にその分布を広げることができます。

 本種の最大のリスクはその有毒性にあります。ヒアリはお尻に毒針を持っており、巣に近づくものに対して集団で襲いかかり素早く毒針を刺して毒を注入します。その結果、強い痛みと腫れを人体にもたらし、アレルギー体質の人の場合は激しいショック症状をもたらし、最悪死に至ります。実際にヒアリが侵入して分布が広がっている北米では、毎年8万人が刺傷被害に遭い、うち約100人が死亡していると報告されています。

 TPPなどグローバリゼーション加速で、日本侵入のリスクが高まる

 この毒アリは、1900年代まではその侵入地は北米に限られていましたが、21世紀に入ってから、2001年にニュージーランド、オーストラリア、2005年にシンガポール、中国南部、台湾へと太平洋沿岸の地域に急速に分布を拡大し、日本に侵入してくるのも時間の問題となっています。

 本種がわずか数年で太平洋沿岸地域を次々に席巻した背景には、近年の中南米の開発に伴う野内の拡大と農産物の輸出量の増大、さらに東アジア地域の経済発展に伴う天然資源の輸入量増大という経済フローがあると考えられます。今後TPPも含めて、グローバリゼーションが加速することによって、ますます外来生物の侵入リスクは高まってくると考えられます。ヒアリはその第一候補として、十分に警戒する必要があります。 
 
(国立研究開発法人国立環境研究所・侵入生物研究チーム 五箇公一)

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Posted by jun at 2015年12月11日 10:00 in 外来生物問題

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