愛くるしい眼(まなこ)で有名な小型のシカ「キョン」が伊豆大島(東京都大島町)で大量繁殖し、島名産のアシタバなどを食い荒らしている。繁殖に捕獲が追いつかない状態で、大島では人口よりもキョンの数の方が多くなってしまう事態に。また、房総半島南部(千葉県勝浦市など)でも急増し、有害鳥獣として捕獲対象になっている。食用や革製品として提供しているところもあるが、ごく一部に限られ、“厄介者”となったキョンに東京都などが頭を悩ませている。
■見込みが外れ…大量繁殖
昭和49〜55年に少年誌で連載されたギャグ漫画「がきデカ」(山上たつひこ作)の中で、「八丈島のきょん!」というフレーズがあり、一躍有名になったキョン。50代の都職員は「われわれの時代は、キョンといえば『八丈島のきょん!』。人気があったんだけどね」と振り返る。
キョンはシカ科の動物で中国南東部や台湾が原産。体重約15キロで、大きさは中型犬ほど。生後1年ほどで繁殖が可能になり、年中繁殖が可能という。農業被害を及ぼす特定外来生物に指定され、東京都が平成19年度に、千葉県が21年度にそれぞれ駆除計画を立て、根絶に取り組んでいるが、生息数は年々、増えている。
伊豆大島では昭和45年、都立大島公園(動物園)で飼われていたキョン十数頭が台風で壊れた柵の間から逃げ出して野生化し、繁殖したとみられる。キョンの天敵であるオオカミやクマがいなかったことも繁殖を加速させた。
都環境局によると、平成22年度の調査では、キョンの生息数は推定3千頭。1年に1千頭ずつ捕獲していけば、5年後には根絶できると見込んでいた。だが、26年度の調査では推定1万1千頭にまで急増。約8300人の大島町の人口よりも多くなった形で、キョンの増加数に捕獲数が追いついていないという。
都の担当者は、急増の理由について「調査の精度が上がり、より正確な実態がつかめるようになってきた」と説明する。逆算すると、22年度の調査時点で、すでに生息数は6千匹に及んでいたとみられるという。
■都だけにまかせておけない
この事態を受け、これまで「東京都が逃がしたのだから、東京都が責任を持って根絶すべきだ」としていた大島町も、今年度から対策に乗り出した。
大島町の統計によると、26年度の鳥獣によるアシタバなどの農産物の被害額は約581万円。うち約380万円がキョンによるものという。畑が全滅した農家もあり、町では人家や畑の周辺を中心に、わなを仕掛け捕獲している。
房総半島では昭和30年代、千葉県勝浦市の動植物園「行川アイランド」(平成13年閉園)から脱走したキョンが野生化。19年度は推定3400頭だったのに対し、26年度末は約4万7千頭に増えている。
千葉県の26年度の農業被害額は計3億8千万円で、そのうち、イノシシが約1億9千万円と半分以上を占め、キョンは77万9千円にすぎないが、「今から手を打たないと大変なことになる」(県の担当者)と危機感をあらわにする。
■食肉や革製品として
捕獲されたキョンはほとんどが殺処分されるが、一部、食肉や革製品として活用されているものもある。
フランス料理店「deco」(東京都渋谷区)では2年前ごろから、房総半島で捕獲されたキョンを猟師から直接仕入れ、ローストしたり、ミンチにして「パテ」にしたりして不定期で提供している。シェフの室田拓人さん(33)は「鹿肉をあっさりさせた感じ。当店で初めて食べる人がほとんどだが、『おいしい』となかなか好評ですよ」と話す。
また、キョンの頭皮から作られたセーム革は最高級品で、バイオリンなどの楽器の手入れに用いられている。
しかし、産業に結びつけるには、食肉処理場などの整備をはじめ、人材育成や採算性などの課題があり、大島町の担当者は「対策に乗り出したばかりで、産業化を検討する段階にはない」と説明する。
都の幹部も「早急に駆除することが優先で、産業化は難しいだろう」と述べ、キョンとの戦いに効果的な方法を見いだせずにいる。
Posted by jun at 2015年10月16日 09:57 in 外来生物問題