大阪のまちなかを流れる淀川に、国の天然記念物が生息しているのをご存じだろうか? 大阪市旭区の淀川左岸に広がる城北ワンドで、絶滅の危機に直面する天然記念物を守る活動が、官民一体で懸命に展開されている。市民グループの保全活動を取材し、天然記念物の撮影に成功した。
城北ワンドで稚魚が順調に成長
たぐり寄せられた地引網の中で、小魚たちが銀鱗を光らせて飛び跳ねる。とりわけ大切に取り分けられ、バケツに移されたのが、天然記念物のイタセンパラだ。参加者たちがバケツを取り囲む。
「ずいぶん大きくなったなあ」「ほんま元気そうや」。わが子の成長を喜び合うような歓声が飛び交う。市民団体「淀川水系イタセンパラ保全市民ネットワーク」が春から秋にかけて、毎月2回実施している城北ワンド定例保全活動のひとコマだ。
イタセンパラをはじめとする在来魚の生育状況を調査し、イタセンパラの天敵となる外来魚の駆除やワンドの清掃を行うことで、イタセンパラが生息しやすい環境を守る。8月2日はあいにくの雨模様となったが、会員ら十数名が参加。前回調査時よりも成長したイタセンパラの稚魚が10匹程度確認され、外来魚の繁殖が引き続き抑え込まれていることも判明した。
イタセンパラは日本固有種でタナゴの仲間。成魚は体長10センチほどに育つ。淀川水系の他には、濃尾平野と富山平野の各水系に分布していたが、生息数が激減。絶滅のおそれがあるとして、1974年には魚類初の国の天然記念物に指定された。産卵期のオスが美しい紫色の婚姻色となるため、「淀川のシンボルフィッシュ」の愛称を持つ。
産卵期は秋で、イシガイなどの二枚貝に卵を産み付ける。親たちは産卵を終えると越冬することなく、死んでしまう。ふ化した仔魚はしばらく貝の中に潜んで暮らし、春ごろ稚魚となってワンド内へ泳ぎ出す。そして夏から秋にかけて大きく育って成魚になると、今度は産卵して命のバトンをつなぐという、1年サイクルの生活史を刻んできた。
しかし、ワンド減少などの環境変化に加え、ブラックバスやブルーギルなどの外来魚が増え、イタセンパラの稚魚を根こそぎ捕食してしまう事態が慢性化。淀川では2005年を最後にイタセンパラの確認が途絶えてしまう。
そこで、国交省淀川河川事務所と府立環境農林水産総合研究所水生生物センターが共同でイタセンパラ野生復帰の取り組みを進めてきた。2013年秋、同ネットワークなど官民一体の粘り強い保全活動で、外来魚駆除の成果をあげていた城北ワンドに、水生生物センターで飼育していた成魚500匹を放流。今春には放流した成魚の子とみられる600匹の稚魚が確認されていた。城北ワンドでの稚魚確認は9年ぶりの朗報だった。
行き交う市民ランナーも興味津々
この日、記者が撮影した稚魚は、大きいもので体調8センチほどに成長していた。体高が高く、背びれや尻びれが大きい。天然記念物にふさわしく優雅な気品が漂う。地引網調査を繰り返すうちに、河川敷を行き交う市民ランナーやサイクリストたちが立ち止り、興味深そうにのぞきこむ。北区在住の女性ランナーにとって、「インセンパラ」の名前は初耳。「忘れないうちにメモしておきます」と、スマホのメモ機能を使って、その場で名前を書き込んだ。イタセンパラと対面すると、さっそくスマホで撮影していた。
男性サイクリストは北海道から大阪へ単身赴任中とのこと。「天然記念物がいるんですか。大阪はすごいなあ」と驚いた様子だった。定期的な保全活動自体がイタセンパラを知らしめる広報活動にもなっているようだ。
大阪工業大学特任教授で同ネットワーク会長の綾史郎さんは「このまま稚魚が順調に成長すると、秋には産卵する。来年の稚魚は野生の2代目となり、本来の野生繁殖復活に大きく近づく。今がとても大事な時です」と話す。
その上で、「大阪の宝物を市民の連携で守っていきたい。関心があれば、いちど城北ワンドへ足を運んでください」と、活動への参加を呼びかけていた。大阪人なら、イタセンパラから目が離せない。詳しい問い合わせは同ネットワーク(同研究所水生生物センター内)(072・833・2770)まで。(文責・岡村雅之/関西ライター名鑑)
Posted by jun at 2014年08月19日 12:38 in 外来生物問題, 魚&水棲生物, 自然環境関連