2014年02月04日

アジアのコイはアジアへ―繁殖対策に商機見いだす起業家

 【ウィックリフ(米ケンタッキー州)】アジアからの外来種のコイが米国南部から中西部にかけて河川に繁殖し、在来種の生物を駆逐しているため、それを阻止しようと専門家は電気柵の設置や有毒な微粒子の散布を含む入念な対策案を提示してきた。ところが中国系米国人の実業家、アンジー・ユーさん(58)はもっと単純な解決策を思いついた。コイをアジアに戻すという案だ。米国人の多くはコイは骨が多すぎると考えているが、アジアの人たちはコイを好んで食べる。

 ユーさんは2012年、ミシシッピ川とオハイオ川の合流地点に近い小さな町で水産加工会社トゥー・リバーズ・フィッシャリーズ(TRF)を立ち上げた。これまでに冷凍したコイ50万ポンド(約227トン)を中国に輸出した。彼女によると、中国ではコイは通常養殖されていて、そうした養殖魚は泥臭い味がする。

 ユーさんは自社製品を「天然」の「ケンタッキーホワイトフィッシュ」とうたっている。中国語の宣伝ビデオでは、民俗調の音楽に乗せて「美しくて栄養豊富なミシシッピ川、栄養満点の米国の母なる川」で育ったコイだと売り込んでいる。新ブランドの名称にケンタッキーを入れた背景には、「中国ではケンタッキーフライドチキン(KFC)が人気を集めている」という事情もある。

 ユーさん以外にもコイをめぐる競争で稼ごうとする起業家はたくさんいる。イリノイ州トムソンでシェーファー・フィッシャリーズを経営するマイク・シェーファーさんによると、同社はコイを冷凍して16カ国に出荷するほか、コイをユダヤの律法にかなった方法でホットドッグやサラミ、ゲフィルテ・フィッシュ(魚のすり身をつみれにした料理)に加工している。

 アメリカン・ハートランド・フィッシュ・プロダクツは間もなくイリノイ州グラフトンに工場を開設する。この工場は日量6万ポンドのコイを処理する能力を持つ。巨大な機械で魚をすりつぶし、そのすり身に700度の激しい温風を吹き付けた後、残留物をプレス機にかける。グレイ・マギー最高経営責任者(CEO)は、最終的に栄養補助食品の魚油や飼料の魚粉ができる、と説明する。

 アジアのコイは最大100ポンドまで育つ。1970年代に排水で汚れた池を洗浄するために、初めてアジアから米国南部に持ち込まれた。しかし、洪水が起きたときに河川に流れ込み、それ以来増殖してきた。徐々に北上しつつあり、今や五大湖にも近づきつつある。ただし、南イリノイ大学の研究を担当するジェームズ・ガービー副総長によると、まだ五大湖に住み着いた形跡はない。

 コイは非常に食欲旺盛な魚のため、他の種を駆逐して生態系を乱してきた。コイの1種、ハクレンは船のエンジン音に驚く傾向がある。エンジン音を聞くと水面から飛び上がり、漁師の頭に激突することもある。

 中国ではコイは人気のある魚だが、市場開拓は容易ではない。まず巨額の輸送費がかかる。現地の消費者は冷凍の魚ではなく、新鮮な魚を好む。イリノイ州グリッグスビルでビッグ・リバー・フィッシュ・コーポレーション(BRFC)を経営するリチャード・ヤンさんは「中国人にはいつも『あなたの魚は死んでいる』と言われる」と語る。さらに中国人は「われわれが輸出するような巨大魚ではなく」、1人で1匹食べきれる程度の大きさを好むという。彼はコイを中国などの海外諸国に輸出している。

 ヤンさんによると、BRFCはコイを富裕層に汚染されていない健康な魚として売り込んでいる。中でも人気のある部位は頭部だ。中国人はコイの頭部をしょう油やショウガ、唐辛子と共に蒸して食べる。「中国人はコイの頭部に目がない」と語る。「コイの頭部には食べられる物が詰まっている」

 漁師のバイロン・マンさんは最近、新鮮な魚をピックアップトラックに積んでユーさんの工場に届けた。ユーさんの工場の壁には中国人の子供がオレンジ色の巨大なコイを抱えて笑っている様子が描かれている。工場の労働者は身もだえする魚を金属製の台に乗せ、はらわたを抜いて洗い、冷凍庫へと運んだ。

 マンさんはアジアのコイを好きではない。「コイはミシシッピ川のサッカー(淡水魚)産業をほぼ駄目にした」と語る。複数のコイが飛び跳ねて彼にぶつかってきたこともある。「目の回りにあざができて、あと少しで鼻の骨も折れるところだった」とマンさん。

 そのため、コイを海外に送り出せる、しかも利益も得られると聞いたときには飛びついた。安定した需要があればコイの増殖を「食い止められるかもしれない」と語る。

 ユーさんは10年に新聞記事を読んで工場を開設する案を思いついた。ユーさん自身はアジアのコイにおいしい魚という印象を抱いているが、その記事はアジアのコイが米国で繁殖していることを「災難」と表現していた。

 「他の人の考え方を知って驚いた」とユーさん。そして彼女はロサンゼルスからウィックリフに移住し、州や郡から一連の補助金や奨励金をもらって8月にコイを出荷し始めた。

 ユーさんは15年以上前から中国に海産物を販売している。かつては北大西洋の在来種、ダンゴウオでひともうけした。ダンゴウオはその卵を目的に捕獲されるが、米国ではほとんど知られていなかった。アイスランドの漁師たちがこの魚の卵だけを抽出して他の部分は捨てていることを知り、ここに商機があるとみた。

 問題が1つだけあった。ダンゴウオの身はおいしいのだが、皮が厚くてなかなかはげないのだ。ところがある日、ユーさんは皮を食べてみた。するとナマコに味が似ていることがわかった。中国ではナマコは珍味だ。味がナマコに似ているという点がダンゴウオの強みとなった。

 ユーさんにダンゴウオを輸出していた企業、トリトンのマネジングディレクター、オーマー・アーナルソンさんは、需要の拡大に伴ってアイスランドから中国へのダンゴウオの出荷量は09年の75トンから12年には2500トンに急増した、と語る。「まるでゴールドラッシュのようだった」

 米国でコイの市場を開拓することに集中する起業家もいる。一部の外食産業はコイを高級珍味に変貌させようとしているが、成功例ばかりではない。ニューオーリンズのフィン・インターナショナルは東南アジア系の住民をターゲットにコショウやハバネロなどの香辛料を加えたコイの魚肉団子を作っている。

 一部地域では英語のコイという単語(carp)にはよくない意味があるため、フィンはコイに他の呼び名をつけた。共同創業者のルラ・ルーさんは、数十の案を検討したすえに結局ロシア語の名称を参考にして「アメリカン・シルバー・トルパイガ」と名付けた。「この方が発音しやすい」

 一方、バトンルージュのシェフ、フィリペ・パロラさんは1000万ドルを投じて工場を建設し、そこでコイのすり身を使ってホテルやカジノ、クルーズ船を対象にルイジアナ風魚肉コロッケを大量生産しようと投資家を募っている。パロラさんは「悪い魚などない」と語る。「作った商品に需要があれば消費者は買ってくれる」

+Yahoo!ニュース-経済-ウォール・ストリート・ジャーナル

Posted by jun at 2014年02月04日 17:06 in 外来生物問題

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