政府が1月末、世界自然遺産の暫定リスト入りを決めた「奄美・琉球」(鹿児島、沖縄県)は、独特の地史と気候が生んだ世界でも類を見ない固有種の宝庫だ。貴重な生態系を脅かす外来種の駆除が成果を上げ始める一方で、密猟などの問題も山積しており、保護の道のりは長い。(草下健夫)
◆島に乗って移動
奄美諸島と琉球諸島が約850キロにわたって南北に連なるこの地域は、琉球列島とも呼ばれる。その大半は約1500万〜600万年前、地殻変動で大陸から分離して誕生した「大陸島」だ。動植物は島々に乗る形で移動・隔離され、独自の進化を遂げた。
琉球の生物に詳しい兵庫県立人と自然の博物館の太田英利主任研究員(生物地理学)によると、固有種が豊富なことで知られる南米沖のガラパゴス諸島や小笠原諸島は、海底が隆起してできた「海洋島」で、成り立ちが異なるという。
太田氏は「海洋島は海水が苦手な両生類は漂着できないが、琉球列島はカエルの固有種も多い。列島の西にある沖縄トラフは水深が深いため、氷河期に海水面が下がっても大陸と地続きにならず、固有種が守られた」と話す。
大陸の近縁種が氷河期に絶滅しても、琉球列島では暖流の黒潮により気温低下が少なく絶滅を免れた。太田氏は「熱帯に属するカリブ海の一部やフィリピン諸島も状況は似ているが、琉球列島は亜熱帯で四季のリズムがあり、世界的にも極めて特異な生態系を持つ」と強調する。
例えば、奄美大島と徳之島だけに生息するアマミノクロウサギは後ろ脚と耳が短く、初期のウサギの姿を残す「生きた化石」と呼ばれる。約1千万年前にほかのウサギの仲間から分かれたとみられ、近縁種は現存しない。トゲネズミの仲間も、大陸ではかなり昔に絶滅したとみられる。
また、琉球列島には大型の肉食獣や猛禽類がおらず、ヘビを頂点とする独特の生態系が形成された。陸上の爬虫類と両生類は固有種の多さが際立ち、在来の計83種のうち固有種は少なくとも約8割の66種に及ぶ。中でもハナサキガエルやクロイワトカゲモドキなどの仲間は、島ごとに多くの種類に分化した。
◆外来種駆除で回復
貴重な生物群は人間活動に脅かされ、50種以上の陸生動植物が国際自然保護連合(IUCN)のレッドリストで絶滅危惧種に指定されている。森林伐採による生息域の縮小のほか、最大の要因はハブ退治のため移入された哺乳類のマングースによる捕食だ。
環境省などが奄美大島と沖縄本島北部で駆除を進めた結果、マングースは2010年頃から捕獲数が激減。飛べない鳥のヤンバルクイナやアマミノクロウサギの個体数は、ようやく回復を見せ始めた。
同省の担当者は「マングースは昆虫やトカゲなども手当たり次第に食べるため影響が大きい。一時期はかなりの種で存続が危ぶまれたが、駆除が効いてきた」と説明する。
ただ、これだけでは生態系を守れない。ヤンバルクイナの交通事故は増え続け、昨年は確認されただけで最多の47件を記録。大型甲虫のヤンバルテナガコガネや希少植物は密猟、盗掘され高値で闇取引されているとみられ、警察などがパトロールを続ける。捨てられた犬や猫が野生化して在来種を捕食したり、病気を伝染させる問題も深刻だ。
◆「ルール」守れるか
国連教育科学文化機関(ユネスコ)の世界自然遺産は「顕著な普遍的価値」があり、保全や管理が十分と認められて正式に登録される。
暫定リストは各国が登録を希望する地域の一覧で、政府は今後、奄美・琉球を国立公園に指定するなど保全・管理の準備を進めた上でユネスコに推薦。早ければ2016年の正式登録を目指している。
太田氏は「登録済みの屋久島のように観光客が押し寄せ、ごみ問題などが生じると、規模が小さい琉球の島々の自然は短期間で破壊される。きちんとルールを作って守り続けることが大切で、それができないなら登録しない方がよい」と警鐘を鳴らす。
登録はゴールではなく、自然との関わりを改める新たなスタートでなければならない。
Posted by jun at 2013年04月09日 13:13 in 外来生物問題, 自然環境関連