瀬戸内海西部の海域で暖かいサンゴ礁などに生息する魚類が頻繁に捕獲されている。水温が低下する冬の瀬戸内海ではこれまで、温かい海域の魚類は年間を通しては生息できなかったが、定着性が強い魚類も出現、繁殖の例も認められるという。瀬戸内海では、東部の大阪湾でも亜熱帯海域に生息する魚介類が多数確認されるなど温暖化の影響による生態系の変化の危険性が指摘されており、今後広い範囲での影響が心配されている。
瀬戸内海区水産研究所(広島県廿日市市)によると、山口県上関町沖で今年7月、東インド洋から西太平洋の熱帯域などに生息する有毒魚・サツマカサゴが、瀬戸内海で初めて捕獲が確認された。体長18・7センチのメスの成魚で、産卵直前の卵巣を持っていた。広範囲に回遊する魚種ではないことから、周辺海域に定着、繁殖している可能性が考えられている。
上関町沖合は豊後水道から黒潮の支流が流れ込むが、冬場は水温が10度前後に低下するため、これまでは熱帯性の魚類が定着、繁殖することはなかった。しかしこの30年間の調査で、瀬戸内海の年間平均水温は1度程度上昇。特に冬場、広島湾などでは水温が10度を上回る日が多くなり、熱帯や亜熱帯の魚類が年間を通して生息できるようになったとみられている。
同じ上関町沖では今年5月にも、外海の水深100メートル前後に生息する南方系のオキトラギスの成魚2匹の捕獲報告があったほか、11月には広島県呉市倉橋町沖の広島湾内で、暖かいサンゴ礁の海にいるサザナミフグが泳いでいるのが見つかっている。
また、広島湾内の似島沖や宮島沖などで昨年までに、いずれも南方系のソウシハギやミナミイケカツオ、「クロカンパチ」の名で知られるスギなどの捕獲が相次いで確認されている。
周防灘沿岸の干潟では数年前から、暖かい海にすむナルトビエイが夏場に頻繁に進入。アサリなどの二枚貝に食害をもたらしており、沿岸の山口、福岡、大分の3県で、大規模な駆除活動が行われている。
こうした傾向は、東部でも同じ。特に大阪湾は今年秋に海水温が高い状態が続き、サザナミフグや、南方系で成魚が2メートル近くにも育つロウニンアジなどが確認されたほか、通常の倍の大きさのイシダイが釣れるなど、異変が続いている。
瀬戸内海は外洋に比べて水深が浅く、気温の影響を受けやすいことから、専門家はこのまま海水温が高い状態が続けば生態系や水産業に大きな影響が出ると指摘する。
実際、魚類だけにとどまらず、貝毒をもたらす熱帯性のプランクトンも毎年のように確認されている。これまでのところ、熱帯性プランクトンによる大規模な貝毒の発生は報告されていないが、高密度で増殖すると、広島県や岡山県で盛んなカキの養殖などに影響を与える危険性も考えられている。
同研究所の重田利拓研究員は「日本沿岸の海流は、数十年ごとに水温が高い時期と低い時期が交互に来る。今は高い時期に入っていることから、地球温暖化の影響とは言い切れないが、十数年前とは瀬戸内海の環境が変わってきているのは間違いない」と話している。