◇蓄積、下水処理水に由来?−−魚に合う「水質改善」へ、汚濁メカニズム解くカギ
琵琶湖の水質悪化が社会問題化して以降、県はさまざまな対策に取り組んできた。「琵琶湖富栄養化防止条例」で有リン合成洗剤の使用などを禁じ、リンや窒素の排出を規制。事業所などの排出も厳しく規制し、積極的に整備を進めた下水道ではリンや窒素の高度処理を導入してきた。流入による環境負荷は低下し、70〜80年代をピークとして、その後の水質悪化はおおむね抑えられたはずだった。しかし、琵琶湖を長年見つめてきた研究者や漁師らから、数字上の「水質改善」には理解を示しながらも「(水の)質が変わってきている」「魚に合わなくなっている」などという声がが聞こえてくる。
よく指摘される二つのグラフがある。琵琶湖のBOD(生物化学的酸素要求量)とCOD(化学的酸素要求量)の経年変化だ。いずれも水中の有機物の量、つまり水の汚れを示す環境指標で、BODは水中の有機物を微生物が分解する際に消費する酸素量を表す。一方、CODは水中の有機物を酸化剤で酸化させる際の消費量を示す。二つの指標は同じ傾向を示すのが普通だが、琵琶湖では保全対策の結果、両指標とも低下してきたものの85年ごろを境に、CODが上昇傾向に転じた。このBODとCODの“乖離(かいり)現象”が長く謎とされてきた。
COD値の上昇は、霞ケ浦、十和田湖や富山湾などでも見られる傾向。生物が分解できる有機物が減っている一方で、分解が難しい「難分解性有機物」が蓄積している可能性が考えられ、県は最近になって特にこの物質に注目している。これまでさまざまな対策を講じてきたのに、必ずしも環境が改善したとは言えない状況を解く、有力なカギと考えているようだ。
昨年11月15日に開かれた県議会の環境対策特別委。湖沼における難分解性有機物研究の第一人者の今井章雄・国立環境研究所(茨城県つくば市)湖沼環境研究室長が参考人として招かれた。今井室長は霞ケ浦で行ってきた研究内容を説明。溶存態の難分解性有機物を調べた結果、霞ケ浦では同有機物の相当部分が下水処理水に由来しているとの結論を得たことなどを報告した。
琵琶湖でも、下水の影響が大きいのかどうかは未解明だが、今後の大きな問題提起になることは考えられる。実際、「琵琶湖を本当に良くするには、下水を流入させないことが必要なのでは」と語る研究者もいる。
湖の保全のモデルともされるタホ湖(米)では60年代前半ごろ、処理水を湖に流入させる下水道計画が予定されたが、処理水を研究者らが調査して湖への汚濁負荷となることを証明。計画が変更されたエピソードが知られている。
難分解性有機物を通じて、琵琶湖の汚濁メカニズムの未解明部分を探る作業は、従来の保全対策の転換点になるかもしれない。【服部正法】 1月6日朝刊