バスフィッシングと出会って20年あまり。
すっかりオッサンになったかつての釣り好き少年が、
これまでに出会ったさまざまなことを
つれづれ〜っと書いていきます。
ご意見、ご感想、叱咤激励はこちらまでよろしくね。


TEXT by Jun Sugawara

BEAT 9  続・投稿ボードのご意見について(2003/5/6)

……というワケで、続きです。

「琵琶湖でバス駆除は不可能」と書きましたが、これには根拠があります。
私は、琵琶湖で開催されたシンポジウムで、デイビッド・グリーン博士とお会いしました。
グリーン博士はアメリカの水産学者で、サンフィッシュ科の魚の研究で著明な方です。
シンポジウムが終わった会場で、私はグリーン博士にいくつか質問をしてみました。
その中のひとつが「琵琶湖のバスを完全に駆除することは可能か?」というものです。
答えはひと言、“impossible”、つまり「不可能」でした。
博士によると、繁殖(再生産、な〜んて言葉を使ったりしますが)が確認されている魚類の場合、
繁殖期の終わりから次回の繁殖期までに全滅させなくては意味がない、とつけ加えていました。
誤解のないように書いておきますが、博士は世に言う“駆除派”でも“擁護派”でもありません。
見た目はまったく異なりますが、頭の中身は「サカナくん」とほぼ一緒です。
ようするに魚が大好きで、頭の中が魚に関する知識でいっぱいの人です。
私は残念ながら「サカナくん」とお会いしたことはありませんが、間違いなく同類でしょう。
私は、同類の人物を数多く知っていますが、こういう方のお話はとても興味深いんです。
その話はまた書きますので、お楽しみに。
で、このときのその後の会話を紹介しておきます。
(バスの駆除は不可能、と答えたグリーン博士に)
「では、たとえば毒を流して一気に全滅!……とか、はどうでしょう?」。
私が冗談で言ったところ、博士は真顔でこう答えてくれました。
「アメリカには前例があるけど、水域すべてに毒を撒くのはとても大変だし、
なにより対象以外の魚も全部死んじゃうから……お薦めはできないね」。
前例あるんかい!
と、ハマちゃんばりに突っ込んだのは言うまでもありません。
アメリカにも、魚を含めた外来種に関するさまざまな問題があります。
たとえば、私はカリフォルニア州で日本産のワカサギやコイを見たことがありますし、
フロリダ州でも南米産のシクリッド数種を確認しました。
そう話したら「その水域ではバスも移植種だけどな」と、博士に突っ込まれましたが。

……って、すいません。
強烈に脱線してしまいました。

「昔 屋久島だったかな 危険なハブ撃退のためマングースを大量に輸入して離したら、
ハブは食ってくれなくて、天然記念物?の山ウサギが減っていったとか。琵琶湖でも同じ
ようなことが起こるような気がします」。


これはおそらく、奄美大島のコトですよね?
ハブ駆除のために放したマングースがアマミノクロウサギを駆逐している……というおハナシ。
アマミノクロウサギ、バリバリの特別天然記念物ですしね。
徳之島にもいますが、マングース騒ぎで有名なのは、奄美大島のほうです。
で、「琵琶湖でも同じようなことが……」とありますが、これはすでに起きていると思います。
たしかに、マングースはアマミノクロウサギを補食しているようです。
ですが、アマミノクロウサギの減少はこれだけが原因ではありません。
バス問題で免疫のある(?)私は、こういった報道を疑うクセがついてしまいました。
で、いろいろと調べると、アマミノクロウサギ減少の要因には、やはり環境破壊による生息域の消失、
野生化したイエネコなどの家畜による影響もあるようです。

ですが、この問題の背景は、非常に複雑です。
なにしろハブ咬症は死亡率が高く、たとえ死を免れても患部の壊死など、
沖縄、とくに周辺の島などでは交通網の問題もあり、深刻な被害をもたらしていました。
興味があったら調べてください。
かつて日本でこんなことがあったのか……と、ショックを受けること間違いありません。
たしかに奄美大島のマングースは生態系に影響を与えていると思いますが、
ハブの被害を受けた人々やその家族の気持ちは軽視できませんし、
それを後押しした当時の世相も考えるべきだと思います。
パンダ、アルマジロ、コアラ、ウーパールーパー、エリマキトカゲ、クリオネ、
……最近ではタマちゃん。
私がガキのころ、マングースという動物は、誰もが知っているスターでした。
沖縄名物“マングースとハブの対決”は、なんとゴールデンタイムに放映されたこともあります。
動物好きな私は、ガキのころこの手のテレビ番組が大好きでした。
現在では沖縄でも「残酷だ」というコトでやっていないそうですが、
猛毒をもつハブに勝ってしまうマングースの活躍に心踊らせたガキどもは、当時無数にいたはずです。
事実、「マングースを放してハブ退治」というニュースを見た私は、
「アイツらなら、絶対やってくれるぜ!」と思っていました。
ところが、マングースは肉食性ですが、けっしてヘビを専食しているワケではなかったのです。
で、彼らは捕らえるのが楽なウサギを食ってしまった、というのがコトのてん末です。
つうか、学者、先に調べとけよ(ボソ)。
ちなみに、ヘビやトカゲを専食している動物といえば、キング・コブラがいます。
このときに放されたのがキング・コブラであったなら、もう少し効果が上がっていたかもしれません。
……なワケありませんが。
繰り返しますが、昔のハブの被害は本当に深刻でした。
かつて、ハブの血清は液状で長期保存が難しく、長期保存が可能な乾燥血清が誕生したのは1969年。
この乾燥血清を作った沢井芳男先生のハナシは、マンガにまでなったほど有名です。

で、なんでしたっけ……そうそう、琵琶湖でした。
琵琶湖の場合、奄美大島と異なる点がいくつかあります。
まず第一に、「バスの食害」を受けている魚種が特定されていないこと。
おそらく、琵琶湖でバスが食べている生物は単一ではありません。
魚類、昆虫類、甲殻類など、いろいろな生物を補食していることでしょう。
コアユ、ニゴロブナ、ホンモロコ……バスの食害で騒がれているのは、水産上の重要種です。
ですが、バスの食害によって数を減らしているのは、おそらくアブラヒガイやデメモロコでしょう。
……と、森文俊さんがおっしゃっていました。
受け売りで恐縮ではありますが、
こういった魚たちがマスコミで取り上げられる機会はほとんどありません。
実は、先のシンポジウムではグリーン博士だけでなく、琵琶湖の職漁者の方ともお話しました。
この方、かなりのおサカナ好きで、他の漁協の方に頼みこんで漁を見学させてもらっているそうです。
しかも、理由は漁法を盗むためじゃなくて、単にサカナが見たいから。
アクアリストなら、この気持ちは理解できるでしょう。
私は、この方の話に夢中になってしまいました。
で、やはりこの2種はほとんど見られなくなっているそうです。

奄美大島のマングースがアマミノクロウサギを補食しているという事実。
琵琶湖のバスが在来種を補食している……これも事実。
林道などの環境破壊がアマミノクロウサギの生息地を奪った……これも事実。
琵琶湖の護岸や浚渫など環境破壊が在来種の生息地を奪った……これもまた、事実です。
つまり、バスやマングースを駆除すればすべてが解決するわけではないというのが真実でしょう。
私たちはこれを真剣に考えるべきだと思います。
……てなワケで、またまた長くなってしまいました。
続きはまた後日……もう1回くらいで終わりにしますので、
もう少しだけつき合ってくださいな。