バスフィッシングと出会って20年あまり。
すっかりオッサンになったかつての釣り好き少年が、
これまでに出会ったさまざまなことを
つれづれ〜っと書いていきます。
ご意見、ご感想、叱咤激励はこちらまでよろしくね。

TEXT by Jun Sugawara

BEAT 4  頑張れオオモリ!(2003/4/18)

私が大森貴洋というアングラーに初めて出会ったのは、
かれこれ10年以上前の河口湖だった。
「鵜の島に住んでバス釣りしてる怪しい人がいるんですけど、知ってますか?」。
私にこう教えてくれたのは、河口湖在住の山下高弘クン。
当時、NBCジュニアで活躍していた山下クンは、NBC山下会長のジュニアでもある。
「噂では、バスとか鴨とか食べてるらしいですよ」。
なにしろ、当時は中学生でヤンチャ盛りの山下クン。
私はてっきりガキどものくだらないウワサだと思っていたのだが……。
それが真実であることを知ったのは、わずか数時間後のこと。
取材のため湖上に出た私は、鵜の島でその怪しい人物を目撃してしまったのである。
いまさらだが、山下クン、疑ってゴメン。
とはいえ、自分で目撃したとはいえ、さすがに鴨は食わないだろうと思っていた。
ところが、ずいぶん後になってから川口直人クンに衝撃的な事実を聞かされた。
「あ、アイツが鴨を食ってたのはホントの話ですよ。
パンとかで餌付けして、油断して近づいてきたところを捕まえてたらしいです」。
山下クン、ホントにホントに疑ってゴメン。
というワケで、そう、この「怪しい人」こそが、大森貴洋さんである。
その後、単身でアメリカへと渡った大森さんの活躍は、みなさんがご存じのとおり。
大森さんのスゴいところは、英語がまったくダメ、
しかも、現地のコネクションも何もない状況でアメリカへと渡ったことだろう。
トーナメント会場ではプロたちに片っ端から声をかけ、
つたない英語でプラクティス同行をお願いしたというのだ。
さらには少しでもお金を節約するためにスーパーの駐車場で寝泊まりしたり、
マクドナルドで値切り交渉までしたというのだから……恐るべき度胸の持ち主だ。
と、なんだか彼の「変人ぶり」ばかりを書いてしまっているが、
実際の彼は礼儀正しい青年というのが正直な感想だ。
なにより、周りのプロたちからの評判が非常にいいのには驚かされる。
私の知人にアメリカ西海岸在住のデニス・コレンダーというアングラーがいる。
コレンダーはかつて、自分の夢である全米レベルのプロを目指し、
貯金をはたいてテキサスへと移住してB.A.S.S. TOP 100に挑戦していた。
このときコレンダーは親友と一緒にトレイルに参戦していたが、
レイク・フォークの畔で出会った大森さんと意気投合したという。
そんなコレンダーが、こんな話を聞かせてくれた。
「タカヒロは本当にスゴい。言葉もロクに話せない中で頑張っているんだから」。
日本と西海岸という違いこそあれ、
バスの世界でメジャーを目指すという気持ちはまったく同じものなのだ。
コレンダーは、おそらく大森さんと同じ夢、同じ思いを共有していたのだろう。
しかし、残念ながら夢は叶わず、資金が尽きたコレンダーは西海岸へと戻ることになった。
その後、大森さんは2001年に初めてのバスマスターズクラシック出場を果たす。
この年のU.S. OPENで再会したコレンダーが、
まるで自分のことのように大森さんのクラシック出場を喜んでいたのが印象深い。
そして今シーズン。
バスマスターツアーのエントリーリストに、デニス・コレンダーの名前があった。
彼はまだ、夢を諦めてはいなかったのだ。
「タカヒロは、人間的にも素晴らしいヤツだよ」。
こう語っていた彼の夢を支えて続けた存在こそ、
遠い異国からやってきて活躍する大森さんだったのである。
残念ながら今シーズン、コレンダーはクラシック出場を叶えることはできなかったが、
きっとその夢を大森さんに託していることだろう。
バスマスターツアーも残りはわずか2戦、大森さんは現在48位タイにつけている。
クラシックに出場するためには、40位以内に入ることが条件だ。
「頑張れ、オオモリ!」
そう思っているのは、実は日本人だけではないのである。

この写真は大森さんが初めてクラシックに出場した2001年大会のもの。今年、クラシック会場で彼の笑顔が再び見られることを期待したい