この夏、第二弾が発売され、さらなる人気を博している『わけあって絶滅しました。』シリーズ。ユーモアな語り口が特徴の図鑑でありながら、「なぜ絶滅が起きるのか?」という深い問いも込められており、子どもから大人まですべての世代の心を掴んでいる。そこで、著者の丸山貴史さんが、本では語り切れなかった話とともに、お勧めの昆虫について解説する全3回の特別企画をスタート。こちらを読んでから『わけあって絶滅しました。』を読めば、絶滅動物の面白さが倍増するはずだ。
● 夏の川遊びでおなじみの「ザリガニ」
川遊びをしていると、よく見かける外来生物のアメリカザリガニ。おうちで飼っている人も多い身近な生き物ですが、そのアメリカザリガニと同じくらい大きな昆虫がいるとしたら驚きではないでしょうか?
そこで第一回は、絶滅しかけた巨大な昆虫「ロードハウナナフシ」についてお話ししたいと思います。かつては絶滅したものと思われていたロードハウナナフシですが、実は奇跡のような脱出劇を経て、見事生き延びていたのです……。
● 「陸のザリガニ」と呼ばれた巨大な昆虫
ロードハウナナフシはその大きさだけでなく、羽がなく太い体もアメリカザリガニに似ており、最大で体長20cmに達します。
幼虫の体色は緑色ですが、成虫になると漆黒のボディへと変化します。これは、幼虫のときは昼に活動し、成虫になると夜に活動することが多いため、環境にとけこむための適応なのでしょう。
ちなみに、死んで標本になると赤茶色に変色するため、生きているときよりますますアメリカザリガニ感が増します。
● ドラマチックな脱出劇
そんなロードハウナナフシは、一度は絶滅したと思われたものの、実にドラマティックに再発見されたのです。
かれらはもともと、オーストラリア大陸から東に600kmほど離れたところにあるロード・ハウ島という島だけに生息していました。個体数は決して少なくはなく、現地では釣りの餌にされていたほどですが、いかんせん分布が狭すぎました。1918年に、島の近くで座礁した船からクマネズミが侵入してくると、みるみるうちに食い尽くされて絶滅してしまったのです。このクマネズミというのは、船舶に潜り込んで、世界中に分布を広げているネズミの一種で、他の島でも小鳥や昆虫を絶滅させています。
ロードハウナナフシがロード・ハウ島で最後に確認されたのは、1920年。それからずっと絶滅したと思われていたロードハウナナフシですが、1960年代に思わぬ場所で再発見されます。それは、ロード・ハウ島から20kmほど離れた「ボールズ・ピラミッド」。そこは海に突き出た三角形の岩山で、酔狂なロッククライマーくらしか訪れることのない場所です。しかし、そんなロッククライマーたちがロードハウナナフシの死体を発見したんです。その後、何度か調査がおこなわれ、2001年になってようやく生きている個体も見つかりました。
● 流木で海をわたって生き延びた
飛ぶことも泳ぐこともできないロードハウナナフシが、なぜそんな場所にいたのでしょうか。確かなことはわかりませんが、かれらの祖先はおそらく倒木とともに海に流され、たまたまこの岩山に流れ着いたのでしょう。その後、本来の生息地はクマネズミという敵に壊滅させられたわけですから、かれらの乗った流木はまさに“ノアの方舟”だったわけですね。
沖縄科学技術大学院大学によるミトコンドリアゲノムの比較でも、「ロード・ハウ島とボールズ・ピラミッドの個体のDNAの違いは1%以下に留まる」という結果が出ています。これは、同じ種と考えて問題はないということですが、両者には違いも見られるので、ボールズ・ピラミッドの生き残りはクマネズミがやってくるはるか前に脱出したものの子孫でしょうね。
● どこに行けば見られる?
そんなドラマチックな脱出劇を経て見事生き延びたロードハウナナフシ。「生きている姿を見たい!」と思う人も多いでしょう。でも、ボールズ・ピラミッドへの上陸許可はなかなかおりませんから、現地に見に行くというのは難しい……。ですが、今は世界各地の動物園などでロードハウナナフシの人工繁殖がおこなわれていて、順調に数を増やしているんです。
そのうち、日本でも見られる日がきっと来ることでしょう。
● 「実は生きていた」動物は他にもいるかも?
絶滅したと思われていたロードハウナナフシが生きていたということは、他にも「実は生きていた!」という動物がいるかもしれませんよね。
そんな可能性のあるものとして、フクロオオカミを挙げる人もいます。フクロオオカミは背中にトラのような縞模様がある肉食の有袋類です。かれらは人間がイヌを連れて移住してきたことが原因で、オーストラリアやニューギニアでは数万年前に絶滅したと考えられています。でも、イヌが入ってくるのが遅かったオーストラリアのタスマニア島では、今から100年ほど前までは生存していたんです。そう考えると、まだイヌが野生化していないニューギニア周辺の島であれば、フクロオオオカミが生き残っていたとしても不思議ではない……。
是非そんなふうに想像を広げながら、本書の他の絶滅動物についても読んでみてください!
山本奈緒子
Posted by jun at 2019年09月03日 09:48 in 外来生物問題, 自然環境関連