2018年12月24日

<目撃>海鳥を生きたまま食べる外来ネズミ、根絶計画が始動

 絶滅危惧種の海鳥を保護、生物多様性に富む南アフリカ、マリオン島
 ナショジオのカメラマンとして長年、野生生物を撮影してきたトマス・ペシャック氏は、悲惨な場面にも幾度か遭遇してきた。それでも、南アフリカと南極の中間に位置するマリオン島の現状を伝える映像は、それまでに見たことがない類のものだった。そこで氏は、生物多様性の宝石のようなこの島へ行き、巣に忍び込んだネズミに生きたまま皮膚をかじり取られたアホウドリやミズナギドリのひなの痛々しい姿をカメラに収めた。

「ネズミがアホウドリのひなに対してしていることはまさに大虐殺そのもので、極めて衝撃的です」とペシャック氏は言う。「わたしは肝が太いほうですが、あれは実にむごい光景です」

 今のところ、ネズミに殺されるマリオン島のアホウドリは、全体のわずか数パーセントにとどまっている。しかし鳥類学者らは事態の深刻化を懸念しており、現在同島では目下、ネズミ根絶プロジェクトが進められている。

 鳥類保護団体「バードライフ南アフリカ」は、南ア政府と協力して、2020年にヘリコプターを使って島全域に毒入りのエサを撒き、ネズミを一掃しようとしている。この計画がもし失敗すれば、鳥のみならず、島全体の生態系がネズミによってさらに傷つけられることになるだろう。

暖かくなってネズミが増えた

 ネズミがマリオン島に入ったのは、おそらくは偶然だった。200年ほど前、アザラシ猟にやって来た人々が原因と思われる。だが、島の研究者たちが頭皮を剥がされた鳥の存在に気付き始めたのは2009年頃のことだ。赤外線カメラの動画によって、その犯人がネズミであることが判明すると、生物学者らはなぜ特定の種の鳥が被害に遭うのかを調査した。

 狙われる鳥の中には、絶滅危惧種(endangered)および危急種(vulnerable)に指定されているアホウドリ3種(ハイガシラアホウドリ、ススイロアホウドリ、ワタリアホウドリ)のほか、近危急種のオオハイイロミズナギドリと危急種のノドジロクロミズナギドリが含まれている。

 研究者らは、気候変動によって冬が暖かくなったせいで、寒さで命を落とすネズミが少なくなっていることを発見した。その結果、ゾウムシ、蛾、種子といった、ネズミがそれまでに頼っていた食料源ではまかないきれないほどまで個体数が増えてしまったのだと、鳥類学者のオットー・ホワイトヘッド氏は言う。

 新たな食料源を探す必要に迫られたネズミたちにとって、数々の生物の中でも、アホウドリと一部のミズナギドリはとりわけ狙いやすいターゲットだったものと思われる。アホウドリの巣は、鳥の体温によって常に暖かく保たれており、ネズミがその下の地面に巣穴を掘るのにおあつらえ向きだ。地中にあるミズナギドリの巣はさらに好ましく、ネズミは鳥が巣の中にいても気にせずにやってきて、そのまま住み着いてしまう。

 おかげで、ネズミは海鳥のひなに容易に近づける。たとえば、アホウドリのひなが卵から孵って2カ月が過ぎると、親鳥たちはエサを探す長い旅に出る。そのためひなたちは約7カ月の間、無防備なまま留守番をすることになる。親鳥がひなにエサをやりに戻ってくるのは週に1度、1〜2時間のみだ。これではひなを守ることは難しい。

 ひなたちが、鳥類学者たちが「かじり」(ペシャック氏はこの言い回しについて「生ぬるすぎる表現」だと述べている)と呼ぶ行為によって命を落とすまでには、数晩かかることもある。2015年には、アホウドリのひなが死んだ事例のうち、ネズミの捕食によるものは全体の10パーセントにのぼった。こうした攻撃にまったく対処した経験のないアホウドリは、身を守るすべを持たない。ひなたちは一晩中眠ることもできないままネズミにかじられ、日中はボロボロになった体をなんとか回復させようと努める。

 一方、親鳥が比較的近くにいることが多い一部のミズナギドリの場合、親鳥たちはあぜんとして、ネズミの攻撃をただ見守っている。「それはまるで、ゾンビの襲撃を受けているような光景です」とホワイトヘッド氏は言う。

1メートル四方ごとに毒入りのエサが必要

 ネズミを撃退できない鳥たちのために、保護活動家らは、自らその役割を引き受けることを決めた。バードライフ南アフリカの鳥類学者ロス・ワンレス氏は、2020年の毒撒き計画を先導する研究者の一人だ。

 東京都区部の半分ほどの広さの島の上を、ヘリコプターがマス目を辿るように飛びながら、1平方メートルごとに毒入りのエサを一つずつ落としていく。ネズミはエサのために遠出をしないため、理論上、この方法ですべてのネズミを網羅できる。しかし、もしエサを撒きそびれた場所が20メートル四方もあれば、少数のネズミが生き残って繁殖し、計画全体が台無しになる。

 ヘリのパイロットはまた、激しい天候にも対処しなければならない。マリオン島周辺の海では、容赦のない暴風が吹く。

 毒は、ネズミを惹き付けるために穀物の中に仕込まれる。毒を食べたネズミは死に、残った毒は検知されないレベルまで劣化して、海に流れ込む。

 アホウドリのエサは魚であり、毒入りのエサや、毒を食べたネズミを食べるとは考えられない。しかし、カオグロサヤハシチドリなど、同島で越冬する腐肉を食べる鳥が毒を口にする可能性はある。こうした種を守るために、別の研究者チームが、毒が完全に消えるまでの間、彼らを一時的に捕獲・飼育することになっている。

 こうした予防措置は安く済むものではない。「一日ごとに、高額な燃料と貴重な時間が費やされます。計画は細部までしっかりと詰めなければなりません」とワンレス氏は言う。

本来あるはずのない脅威

 多額の費用がかかろうとも、この根絶計画には価値があると、保護活動家らは考えている。米テネシー大学の生態学者ダン・シンバーロフ氏は、計画の影響がほかの種に及ぶ危険性もあるとしつつ、こう述べている。「悲惨なアクシデントが絶対に起こらないとは言えません。しかしその可能性は低く、一方でネズミは現に大惨事を引き起こしているのです」

 ワンレス氏も同様の意見だ。氏は根絶計画が成功することを確信しており、その過程でいくらか鳥が死んだとしても、結果として得られるネズミのいない生態系には、それだけの価値があると述べている。アホウドリの数はまた、すでに世界中の商業漁業の影響によって減っている。はえ縄漁の釣り針にかかって命を落とすアホウドリの数は少なくない。「アホウドリは海で散々な目に合わされ、繁殖しようとすればネズミにひなを食べられるのです。本来あるはずのない脅威は取り除いてやるべきです」とワンレス氏は言う。

 毒を撒いた後、研究者らは2年間様子を見て、作戦がうまくいったかどうかを見極めることになる。そのときようやく、頭皮を剥がされる海鳥がいなくなったかどうか、また昆虫の数が復活したかどうかが判明するだろう。そうした証拠が得られるまでは、ただ待つしかない。

 計画の成功を期するペシャック氏は、最終的な結果は、一つの島の運命を決める以上の意味を持つと考えている。「もしマリオン島のような自然のままの離島が救えないとすれば、他の場所について、どんな希望がもてるというのでしょうか?」

文=LESLIE NEMO/訳=北村京子

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Posted by jun at 2018年12月24日 09:49 in 外来生物問題

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