2018年09月11日

外来種対策 市民参加型の調査活動がなぜ重要なのか

 人が野外に放したことをきっかけに増えてしまったアカミミガメやカミツキガメなどの外来生物は、最後の1匹まで取り除かなければ元の生態系を回復させることはできません。そのためには継続した取り組みが不可欠ですが、駆除には当然ながらお金がかかります。そうした点を踏まえて、地域の人々が自治体と連携して外来種対策に参加するしくみを作ることが大事だと加藤先生は言います。今回は、静岡市が行っている市民参加型の調査活動を紹介します。

●生き物たちの楽園だった遊水地 現在は外来種の汚染源に

 今年7月、静岡市にある麻機(あさはた)遊水地で、カミツキガメをはじめとする外来生物の捕獲調査を行いました。これは、市が主催し、私が所属する静岡大学と地域の中高生、市民が協力して、2015年から継続して行っているもの。事前に参加者を一般公募し、約40人の方々が集まりました。中学生以上が対象ですが、参加する大人に連れられた小学生の子どもたちもけっこういましたし、近隣に住む小学生も歩いて見学にやってきたりしました。

 麻機遊水地は、地域を流れる川が昔は大雨のときによく氾濫したため、増水した水を引き込む目的で作られました。防災用の水辺ですが、野鳥や昆虫、両生類、爬虫類などが暮らすようになり、かつては絶滅が危惧される希少な生き物もいるいい楽園でした。しかし、そこに人が放した外来種のアカミミガメなどがすみついて繁殖し、現在は在来種を脅かす汚染源になっています。

 2014年にここで市民が特定外来生物のカミツキガメを発見し、通報によって捕獲されました。解剖したところおなかに卵があり、もし繁殖したらかなりの数に増えてしまうということで、調査が始まりました。わなを仕掛けることでどんな生き物が生息しているかを把握すること、捕獲した外来生物は取り除いて、遊水地の環境をよくすることが狙いです。

 外来生物の駆除は、全国的に見ても業者に頼んでいる自治体が多いです。そうした中で、市民参加型のこうした取り組みを行うのはなぜでしょうか。

●業者に依頼する外来種対策では、解決するまで継続できない

 例えば外来生物が1000匹いるときに、行政が年間100万円の予算をつけて1年に200匹捕ったとすると、費用に対する成果を表すことができます。でも、続けていけば数は減っていきますから、同じ100万円で仕上げの1、2匹を探し出して捕るという段階になると、やっぱり予算はつかなくなる。外来種対策は最後の1匹まで捕らないと、また数が増えて、それまでやったことが無駄になってしまいます。  

 そもそも外来種駆除にかかる費用の出どころは税金です。このお金は本当だったら地域の子育てや福祉などに回せたもの。それを外来種のために使うというのは、地域の人にとって何もプラスになりません。

 業者任せでは、誰かがお金をもらってやる仕事、他人事という感覚になるうえ、解決するまで継続もできない。でも地域の人々が協力してボランティアでやれば、費用も安く済みます。

 今回の調査範囲は約30ヘクタールでしたが、これくらいの広さにわなを150個仕掛けるのを業者に頼んだ場合の費用は1回で約50万円です。一方で、地域の人たちの力を借りれば、わなに入れる餌代程度で5万円もかかりません。同じお金で、1回しかできないことが10回できるわけです。「うちはカメを飼ったことがないから関係ないよ」ではなく、たとえ誰かが飼っていて逃げたものでも、それをみんなでやるという意識が必要です。

普段経験できないわなを使った調査 子どもたちは結果を自由研究に

 調査は2日間にわたって行いました。初めに、なぜ外来生物を捕まえなくてはいけないかを皆さんにお話しします。よく、かわいい生き物、小さい生き物はいてもいいんじゃないか?と言われたりしますが、長い地球の歴史の中で、生き物は少しずつ自分の力で分散し、進化を遂げてきました。それを、自力では動けないところに人間がぽーんと移動させると、そこからまた進化がスタートしてしまう。本来あるべき生物の進化、生物の未来を人間が変えてしまうことになるのです。これはあってはならないこと。それをまず理解してもらいます。

 一般の方が調査活動に参加する面白さの一つとして、わなを扱えるということがあります。わなを仕掛けるには県への申請が必要で、通常は一般の人には許可が下りません。市がとりまとめて申請することで、特別に使うことができました。

 わなのカゴは各自で組み立てます。中に入れる餌も、私たちは臭いの強い魚のアラを用意しますが、練り餌やイカなど、持参したものを使ってもOK。わなの準備ができたら、池の中に沈めて設置完了です。どこにどんな生き物がいそうか、生き物の気持ちになって仕掛ける場所を選びます。

 カゴは翌日引き上げます。中を見てみると、たくさんカメが捕れている人もいれば、全然捕れていない人もいる。継続して参加してくれている方はスキルが向上し、捕れる数も年々増えていきます。うまくいかなかった人は、なぜ自分は捕れなかったのかを考えて、上手な人の技を盗んだりするわけです。子どもたちもカゴに何も入っていないとがっかりして、「なぜ捕まえられなかったの?」ということを私に聞いてきたりします。

 やっぱり、外から丸見えの所にわなを置いても生き物は入りません。道路のすぐ横は仕掛けるのは簡単ですが、生き物が集まるのは、人が近づきにくい、草の陰になっているような所。どんな餌を仕掛けて、どんな場所に置いたら、どんな生き物が捕れたか。子どもたちはそうしたことを夏休みの自由研究にすることができます。

 今年はアカミミガメ29匹、クサガメ84匹、ニホンイシガメ2匹、ニホンスッポン9匹を捕獲しました。駆除の対象となるアカミミガメは、調査開始年から少しずつ減ってきています。一方、在来種のニホンイシガメは最初の年は0でしたが、徐々に確認されるようになりました。今まで外来種に追いやられていたのでしょう。特に今年は初めて、性成熟に達したニホンイシガメのメスが含まれていました。少しずつですが、環境はいいほうに変わっています。

 増えたと言ってもこの通りわずかな数ですが、在来種がここまで危機的状況にあるということを、参加者に知ってもらうことができます。カミツキガメがわなにかからなかったのは、いてもまだごく少数で、繁殖はしていないからなのかもしれません。

殺処分になる外来生物を目の当たりにすることの重み

 わなには、カメ以外にも外来種のライギョやウシガエル、在来種のギンブナやモクズガニなどいろんな生き物がかかります。アカミミガメをはじめとする外来生物は、すべて殺処分になることは子どもたちも分かっています。ペットとして最後まで飼えば生き物も幸せだけど、放されることで悪者扱いされて、処分されることになる。こういうことって、ただ話だけ聞くのと、実際に殺処分される生き物を目の当たりにするのとでは、感じるものが全然違いますよね。それは、子どもたちを教える立場にある教員の方々にとっても大きな差になります。

 ちなみに、捕獲したクサガメやイシガメには、調査中であることを示す標識を付けて放します。クサガメは数が多いため指標となる存在で、次の調査で捕れたクサガメの9割以上にマーキングがされていれば、この地域はほぼチェックしたのかなと分かります。実際にはまだ半分も行かないですけどね。

 標識は、カメの甲羅のフチにドリルで穴を開けます。開ける場所によって個体番号が決まり、識別できるしくみです。この方法では、調査中のカメだと目に見えて分かるので、捕まえて持ち帰られることはありません。標識を付ける作業は、普段私と一緒に調査活動をしている中高生たちがやります。彼らはわなの組み立て方、餌選びや設置場所、捕獲したカメの計測方法など、調査活動に必要なスキルを一通り身に付けています。

●参加者は年々増加 地域のモラル向上は外来種対策に不可欠

 外来種の脅威や環境保護に対する関心は、ここ10年で格段に高まったと思います。調査活動も、暑い中でわなを仕掛けて回収してというのはかなりの労力ですが、ありがたいことに協力してくれる市民の方がどんどん増えています。

 遊水地は散策を楽しめる場所なので、逆に言うと生き物を放しやすいんですね。でも、調査活動が広く知られるようになれば、捨てにくくなる。今まで無関心だった人も、実際にわなを仕掛けてカメを捕獲することで、「なんでこの生き物はここにいて、殺されなければいけないんだ?」などと考えるようになります。そうやって地域全体でモラルが向上していくことが、外来種対策には不可欠です。関心が高まったおかげで、今年に入ってから遊水地に入ろうとしていたカミツキガメを2匹、市民の通報によって捕まえることができました。

 千葉県では、カミツキガメの繁殖が深刻な印旛沼で、地域の農家の方々がわなの設置に協力する動きが始まったそうです。農作業を通して現場をよく知る人たちの知恵はとても役に立つものです。また、静岡市の調査に他県の自治体の方が参加されることもあって、自分たちの市や町でもやってみようという話も上がっています。

 大人から子どもまで地域の人たちにボランティアで参加してもらい、外来生物を捕獲することで、参加者は自然環境について学ぶ機会が得られ、自治体はコストが抑えられるので対策も持続する。外来種問題を地域全体で解決する動きが全国に広まり、多くの人たちに関わってもらえるといいなと思います。

(取材・構成/日経DUAL編集部 谷口絵美 写真提供/加藤英明)

加藤英明(かとう・ひであき)

静岡大学教育学部講師。1979年静岡県生まれ。静岡大学大学院教育学研究科修士課程修了後、岐阜大学大学院連合農学研究科博士課程修了。博士(農学)。カメやトカゲの保全生態学的研究を行いながら、学校や地域社会において環境教育活動を行う。また、未知の生物を求めて世界中のジャングルや砂漠、荒野へ足を運び、その姿は「クレイジージャーニー」(TBS)で「爬虫類ハンター」として紹介されている。外来生物が生態系に及ぼす影響についての研究にも取り組み、「池の水ぜんぶ抜く」(テレビ東京)に専門家として参加するなど幅広く活動中。第44回放送文化基金賞・出演者賞受賞。新著『爬虫類ハンター 加藤英明が世界を巡る』(エムピージェー)が発売中。

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Posted by jun at 2018年09月11日 11:35 in 外来生物問題

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